Wendi Deng Murdoch(9)メディア王の用意周到な離婚

ルパート・マードックは戦わずして勝ったといいましょうか。やはり一代でこれだけの財を築いた人を敵に回してはいけません。したたかでがめついゴールドディガーである妻のウェンディですらかなり動揺するような方法で、離婚を申請したのです。

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Photo: Lucy Nicholson(NBC NEWS Rupert Murdoch, Wendi Deng reach divorce deal)

 
互いへの愛情がなくなって冷え切っても、夫婦ともにメリットがあれば婚姻関係はそう簡単には解消されません。特にルパートほどの財産を持っていれば、妻がクリーナーを雇ってしっかりとその半分を持っていくであろうことを考えると離婚は非常に高くつきますから(ただ彼ほどの富豪であれば財産を守るために婚前契約書を交わしているはずです)、離婚に要する労力や金銭的な理由からも仮面夫婦を演じていた方が利口なのです。それではルパートに離婚申請をさせるような引き金となったのはなんだったのでしょう?

自分にとって圧倒的に有利に離婚できるタイミングを探していたルパート

シリーズ(1)から読んでいる方はもうお気づきかと思いますが、私は引き金になるものがあったというよりは、むしろこの婚姻関係から面倒な財産分与なしで逃げ出すためにルパートが探していた出口が見えて、そこに無事辿り着くための戦略を完璧に立てただけだと思います。
彼女が持つバイタリティ、賢さ、そして自分を喜ばせることだけを考えていてくれたウェンディに夢中になって結婚したはよいものの、新婚早々彼女の過去に関する暴露記事がウォールストリートジャーナルに掲載されてしまい、「僕はもしかして相当たちの悪い女に捕まってしまったのだろうか・・・・」と気がつくも、時すでに遅し。ですから「ウェンディ側に非があるから自分から離婚を申請する」形を狙っていたのでしょう。そしてその出口がこれでした。

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画像はMore evidence of Tony Blair-Wendi Deng relationship emerge - World Newsからお借りしました


妻とブレア元英首相の情事です。ルパートは自らが所有するメディアを通じた間接的な支援によりブレアを首相にした男と言っても過言ではありません。となると、まるでブレアが恩を仇で返したように見えますが、実はルパートは救われたのではないでしょうか。ブレアのような著名人と自分の妻の不倫関係が持つニュースバリューの大きさから考えると、世間に対しルパートは「親友と妻というかけがえのない二人の人間に同時に裏切られた哀れな夫」と自分自身を印象付けることができます。
二人に裏切られてまったく傷つかなかったといえば嘘になるでしょうけれど、そういう感情をコントロールすることにより、ヒステリックでF bombを落としまくるなど言葉使いが荒く汚い粗野な妻を捨てるチャンスとして利用したのではないか、と私は思うのです。

水面下で行われた奇襲準備

このチャンスに飛びついたものの、さすがそこはルパート・マードックですから下手に騒いでそのチャンスを自ら台無しにすることはありませんでした。メディア王が瞬発力と集中力を持ってしかける先制攻撃ほど恐ろしいものはありません。
まずはマードック家や別荘で働いているスタッフ達へ、ウェンディに勘づかれないように極秘で聞き込みを始めました。ウェンディの粗暴で高圧的な態度やヒステリーを理由に、多くのスタッフが彼女をよく思っていませんでしたから、ブレアとのことはもしかすると彼らから妻への仕返しのための噂という可能性もあったかもしれませんから。ただ火のない所に煙は立たぬと言います。妻と親友の間に男女関係が確かにあったこと(まさにその時も続いていたかもしれません)を確認すると、ルパートはついに斧を振り下ろしました。

ウェンディにとっては寝耳に水だった一方的な離婚申請

ウェンディとブレアの関係は、マードック家で働いている人達が勘づいたものだけでも2012年の秋から始まっていました。そして2013年6月13日に妻への事前通達なしで、ニューヨークの裁判所においてルパートから離婚申請が行われました。しかも妻に事後報告したのはルパート本人ではなく弁護士。そのすぐ後に何者かがウェンディとブレアの不倫関係をリークし、ハリウッド・レポーター誌が24時間以内に不倫関係に対するブレアからの否定を掲載したのです。尚、離婚申請を公にしたのは、二人の娘達の学校が休暇に入ってからでした。(新学期が始まって心無い残酷な言葉を耳にする前に)ルパートが娘達にきちんと個人的に説明するためです。
かつては盟友だったブレアからの電話をルパートはすべて無視。知人達を通じて「二度と話す気もないし電話をかけてくるのもやめてほしい」と伝え、ウェンディからの電話には応答するも「もうこれ以上話すことはない」と言うだけ。実は離婚申請される4か月前にジャーナリストが離婚の噂の真偽をウェンディに確認したのですが、その時「離婚なんてするわけない」と答えたように、まさかルパートが離婚を考えているなど彼女の頭をよぎらなかった分、衝撃の大きさが想像できます。

共犯者達(ウェンディ&ブレア)の反応

離婚成立までにかかった時間はたった5か月。ルパート・マードックほどの富豪の離婚にこの程度の時間でけりがつくのですから、もうこれはルパートの作戦勝ちでしょう。ウェンディも敵に回した相手がまずかった。ルパートが離婚を申請した直後、彼女は親友に電話して「ルパートが私と離婚しようとしているの。なぜなのかわからない。私は何もしていないのに」と言ったそうですが、「何もしていないのに」は嘘でしょう~と思いました。なぜなら離婚申請が公になってから、ブレアもウェンディも代理人を通じてインタビューを拒否しているのです。後ろめたく感じるようなことなどしていないのなら堂々とインタビューに応じればよいのに。

ウェンディが離婚の際に受け取ったのは14,000,000ドルの慰謝料(結婚生活1年につき1,000,000ドルずつの計算)と北京そしてマンハッタンに豪邸を一軒ずつ、宝石、そしてアートコレクションの半分。アメリカで最も裕福な人間の一人である元夫にしてみればこれはたいしたことはなかったでしょうし、この程度でおさめて離婚するためにも、元妻とブレアの不倫関係を利用する手はなかったということでしょう。自分の存在を背徳というスパイス代わりにして火遊びを楽しんだ二人を一撃で仕留めたわけです。すごいなルパート。

次回(10)をもって本シリーズをしめくくりたいと思います。