11月11日から行われるグランプリシリーズの仏杯では、トリプルアクセルと3-3を入れた構成にするかもしれないと発言した浅田選手。同じシリーズのスケートアメリカが6位に終わったため、仏杯でどう挽回してもグランプリファイナルに出場できる可能性が低いのであれば、もう結果は気にせずやりたいことをやってみよう、ということなのでしょう。
だけど浅田選手の3-3と言えば、二つ目のジャンプはおそらく3ループなのです。
二つ目のジャンプを3ループではなく3トゥループにすれば、右足のトゥで氷を蹴って舞い上がれますから、3ループよりは左膝への負担は小さくて済むはずなのですが、3ループの場合、一つ目のジャンプを着氷した足(左足)でそのまま踏み切るため、現在左膝に爆弾を抱えている浅田選手にしてみれば自殺行為です。迷走しているとしか思えません。
練習も含め、浅田選手の左膝にかかる負担は計り知れないのです。平昌五輪を目指す選手がプレオリンピックシーズンにそんなことをして大丈夫なのか、ずぶの素人の私は心配になってしまいました。
4年前と同じ。プレオリンピックシーズンなのに、得点源のジャンプを持っていない
バンクーバー五輪で女子フィギュアスケートの競技が終わった瞬間、浅田真央選手はもうソチ五輪の表彰台の一番高いところを見ていたと思います。だけど今は平昌のどこらへんを見ているのか、あるいは平昌を見ているのかすらわからなくなってきました。
バンクーバーに向けたプレオリンピックシーズン、キム・ヨナさんは得点源である3-3、2A-3T、ルッツからの3-2-2のコンビネーションが既に安定しており、見ていて転ぶ気がしなかったし、助走の勢いから見ても回転不足はおそらくないだろうと、ジャッジ達に感じさせるほどの仕上がりでした。
逆にプレオリンピックシーズンでここまで仕上がってしまって、五輪前にピークを迎えちゃったんじゃないの?と心配なくらいでした。だから浅田選手がソチ五輪を目指すと決めた時、ソチのプレオリンピックシーズンはこのこのくらい仕上がっていたらいいなと思ったものです。
ところがソチ五輪の前のシーズンになって蓋を開けてみると、トリプルアクセルの成功率は低いままで、3-3もプログラムに入れたり入れなかったりで、ソチ五輪はどうなるのだろうと思ってしまいました。しかも3F-3Tではなく、難易度の高い3F-3Lo。おそらく浅田選手の方は後者の方が飛びやすいのでしょう。
3-3を入れたジャンプ構成が安定していないということは、得点源を持たないということです。3Aは成功率からすると、武器ではなく諸刃の剣です。「3Aは浅田選手の代名詞」と目にする時、いろんな意味で代名詞になってしまった、と思います。
そしてソチ五輪が終わり、平昌を目指す浅田選手ですが、四年前のプレオリンピックシーズンと同様に、女子選手にとっての得点源である3-3の実戦での成功率はまだわからない状態です。
現在の浅田選手のプログラムのジャンプ構成だけ見ると、ジュニアみたいなジャンプ構成と思われそうですが、かつてばんばん3-3を飛んでいたのです。なぜ3F-3Tを手放してしまったのでしょうか。今更こんなことを考えてもしようがないと思っていますが、もったいない・・・・。
軽々と3-3を跳ぶ若手選手に混じって戦う厳しさ
浅田選手がトリプルアクセルという重りをつけて「挑戦!」とこだわっている間に台頭してきたのが若手選手達。彼女達は3Lz-3T(基礎点10.00)を軽々と飛んできます。
ロシア勢は滑りにスピードもありますし、平昌五輪では脅威となるでしょう。得点という数字の上で追いつかれ、追い越されてしまった浅田選手ですが、トリプルアクセルを捨てることによって手に入るもの(=他のジャンプの精度を上げてGOEで確実に加点を狙える)など、浅田選手自身が一番よくわかっているはずなのです。
勝ちたくて現役復帰したはずなのに、シニアレベルで勝つための最低条件である3-3をはずした構成を選んだのは、痛めている膝への負担を考えたためだけとは思えません。
それでもトリプルアクセルを跳ぶ!というのですから、やはりトリプルアクセルに対する思い入れは強いのです。
バンクーバーでもソチでもトリプルアクセルを跳んで勝てなかったのだから、それで気が済んだだろうなと思っていたのですが、この様子で行くとおそらく平昌でも・・・。
この四年間で浅田選手がこつこつと積み重ね、磨き上げてきたもの
4年前と同様にプレ五輪シーズンでありながら、女子トップ選手達だったら誰もが跳べる3-3を入れた構成が、実戦で安定していない。じゃあこの四年間(休養を除くと三年間)浅田選手は何をやっていたのですかということになりますが、彼女がこつこつとやってきたことはこれなんじゃないかな。
後半ジャンプのミスが続いたため盛り上がりにかけてしまいましたが、スケーティングのスピードがあがり、昔から評価されていた音楽との一体感が増していると感じました。
4年経ってもSP/FSともに3-3を入れた構成が安定していない=迷走してきた結果、というのではなく、実は浅田サイドでは目的地までのルートはちゃんと見えていて、羅針盤は確かに存在するのだと思いたいです。
また、一時は「自分はこの競技に向いていないのかもしれない」とまで思いつめた浅田選手ですが、再び滑る喜びを感じているのかなぁとも思いました。そして解説者の方もおっしゃっているように、年々増してくる成熟した魅力と優雅さがあります。3アクセルに挑戦し続けて自分自身を苦しめることによって、これらの強みが発揮しきれないのはもったいない。
特に優雅さに関しては、もうジュニア時代から海外の解説者が称賛していますが、平昌五輪シーズンはこの優雅さや、今までの選手生活の中で見た闇の深さ、そして闇の暗さを見たからこそまぶしく感じられる光の明るさなど、浅田選手にしか表現できない曲で魅了してくれたらなぁと思います。
モチベーションを保ち、平昌五輪でピークに持ってくることは難しいはずですが、今度こそ浅田選手の集大成とも呼べるプログラムが見られますように。
関連記事