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マリア様はお見通し

普段は何も見えていないふりをしながら、善人面して静かに暮らしています

「チーム・ブライアン」の行間を読む (1)キム・ヨナと母



今まで読んだフィギュアスケート関連の書籍で一番面白かった★★★★★!(二番は髙橋大輔さんの「それでも前を向くために be SOUL2」です)
書きたいことが色々あるので、いくつかのテーマに分けて投稿します。第一回はキム・ヨナさん。「キム・ヨナ」の章の感想を検索してくる訪問者が多いので。

「ヨナのことは私が一番よく知っている」



そういったヨナさんの母ミヒさん。まあそりゃ当然なのでしょうが、チーム・ブライアンにとっては色々と面倒くさかっただろうな(笑)。オーサー氏は、とにかくヨナさんの練習やそれをとりまく環境については、ミヒさんの決定が絶対であるということを早い段階で受け入れました。それは彼とそして彼のチーム全体が韓国の文化に歩み寄り、理解しようとしていますよというジェスチャーでもあったと思います。そして彼らがそうせざるを得ないほど、キム・ヨナという逸材の輝きは強かったのです。

http://www.flickr.com/photos/24115297@N00/4408007820

photo by Clement Lo


ヨナさん母娘がクリケットクラブにやってきて初めて彼女が目の前で滑るのを見た時に、オーサー氏は「腰を抜かすほどの才能」と思ったそうですが、まだ開花していないけれども確実に膨らみつつあるその蕾の大きさと美しさは、ミヒさんが彼女に注ぎ込んできたものの大きさと確かさを証明するものでした。
もちろんミヒさんだけの力ではなく、トロントに来る前に韓国で師事していた指導者の力もありますが(その指導者もミヒさんとのつきあいには苦労したことでしょう・・・)、決して(資金を含む)環境的に恵まれているとはいえなかった韓国で、ヨナさんの才能を枯らすことなくここまで見事に育ててきたミヒさんの功績は、前述の「ヨナのことなら私が一番よく知っている(のだから私の言うことききなさいよ)」に大きな説得力を与えました。
以前YouTubeでオーサー氏がミヒさんに関して語っているのを聞いたことがありますが、こういっていました。

「彼女はちゃんとフィギュアスケートに関して正しい知識を持っている。例えばブレードの磨き方だとか・・・」

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続きは忘れてしまいましたが、ミヒさんはうるさくて時に煩わしい存在ではあったけれど、認めざるを得ないものを持っている人なのだなと思いました。そしてキム・ヨナという、開花の瞬間の美しさを想像しただけで震えてしまうような大器に金メダルをとらせるために、この陰の女帝とどういう風につきあっていくべきかを早い段階で受け入れたオーサー氏もやはり賢く、また忍耐強い人なのだと思いました。

想像してみてください。星一徹・飛雄馬親子に対して「練習は量よりも質ですよ。量ばかりにこだわったら故障してしまいますよ」と言っても聞き入れてもらえませんよね?口や手を出したいのをじっと耐えて「じゃあそうしたいならしてみればいい」とミヒさんに主導権を握らせて後からそれみたことか、と言ったのがオーサー氏のやり方なのです。このようにミヒさんに失敗させて「あなたのやり方では間違えています」と証明してみせるための時間的な余裕が五輪前にあったということを考えると、ヨナさんは幸運でした。

チーム・ブライアンのもとにやってきた頃のヨナさんはいつも泣きながら練習していたそうです。ということはヨナさんはトロントに来てからも、ミヒさんが言い聞かせてきた自分の才能の存在を信じていなかったということです。
ミヒさんご本人もフィギュアスケートをしていた時期があり、芽は出なかったそうですから、やりたくないことをやらされているように見えるヨナさんを見て、なぜこの娘は自分が持って生まれた素晴らしいものの存在に気がつかないのだろう。どれほど叱咤激励すれば気がつくというのか。と、歯がゆい思いをしたことでしょうし、フィギュアスケートを続けさせることが辛い時期があったはずです。

こうして滑っては泣いてばかりいたヨナさんの心を温めたのが、オーサー氏とスケーティング技術等を中心に指導するトレーシー・ウィルソン氏(下の画像下段左)、そして振付師のデイヴィッド・ウィルソン氏(同じく下段右)を中心に構成されたチーム・ブライアンでした。

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このチームに見守られながら、キム・ヨナさんはスケートする楽しみや喜びを知り、その温かな環境の中で彼女の天賦の才能は開花に向かっていくわけです。

そしてD.ウィルソン氏が振付けたあの名プログラム「死の舞踏」はヨナさんの力を最大限に引き出し、また彼女もあのプログラムを愛しました。相思相愛の関係です。私はあのプログラムを見た時に、ヨナのピークはここだ、来年オリンピックなのに大丈夫なのかな、と心配してしまったくらいですが、実はあれは開花寸前の美しさだったのです。ということは開花の瞬間はもっとすごいのか・・・・。
そしてオーサー氏いわく「心も身体も準備ができた」というこの末恐ろしいフィギュアスケーターに、D.ウィルソン氏は五輪での勝負プログラム007を授けました。
あとは皆さんご存知のとおりの、五輪に向けたピーキングをしっかり計算した上での緩やかな右上がり直線を描く快進撃でした。そしてこの大輪の花は見事にバンクーバーで満開の美しさを披露しました。だけどこの美しい花とそれを育て上げた者には棘があったことをオーサー氏は知ることになるのです。
ヨナさんとオーサー氏の師弟関係解消は、彼にとって大変ショックだったそうです。女帝ミヒさんからの一方的な「もうヨナを見てもらわなくてもいいから」という宣告については、私も読んでいて「なぜ?」と思ったのですが、真実は当人達のみぞ知ることです。だけどこの部分に関する述懐は読んでいて胸が痛みました。
別れの予感というか、そろそろ潮時だなという風に心の準備ができていたのならまだしも、突然の解雇ですからね。 こうしてなぜなのだろうとずっと心に引っかかったまま、ショックからなかなか立ち直れずにいたオーサー氏のもとに、神様が贈り物を届けます。その贈り物についてはまた別の記事で書きます。

チーム・ブライアン

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