田中角栄を愛した女達 同性として面白いなと思ったのは・・・

 

愛人を黙らせておくには結局金を与えておけばいいってことなのか - マリア様はお見通し の続きです。


故田中角栄氏の後援会である「越山会」の金庫番と呼ばれ、公私にわたり田中氏と深く関わった女性・佐藤昭氏(昭子から改名)の娘である佐藤あつ子氏の著書を読み終えました。

角栄氏を愛したもう一人の女性・辻和子氏が書いた本と比べてみて感じたこと

まず本書「昭 田中角栄と生きた女」の方が読みやすい!辻氏が書かれた本は全編口語に近い形で書かれていたため、芸者さんのインタビューをそのまま読んでいるような感じで、それはそれでよかったのですが、本書はとにかく読みやすかったです。引き込まれたのは断然こちらの方。
ノンフィクションとしてまとまっていて、これは著者の筆力と、ジグソーパズルのたくさんのピースをあてはめるように、本書の骨格を完成させたノンフィクションライター藤吉雅春氏の力だと思いました。

角栄氏を愛した女性達 同性の目から見て面白いのは断然佐藤昭氏

辻氏の著書を読んだ限りでは、著者は一人の男性としての角栄氏(もちろん権力・財力を含めて)を愛したんだろうなというのが伝わってきました。角栄氏による庇護に感謝し、「おとうさん」と呼んで愛しました。だけど著者自身は政治とはまったく関係のないところに留まっていようとしていたように見えます。
これに対し越山会の金庫番・佐藤昭氏の場合、「帰ってほっとする場所」になるにはあまりにも野心が大きすぎたし、そういう存在になろうとも思っていなかっただろうし、実際に優秀な秘書でした。そして50歳を過ぎても女としては現役であり続け、しかも交際相手は田中派の議員だったりとかなり奔放でした。
陰で支えた辻和子氏、表で力強く二人三脚で歩んだ佐藤昭氏。同性から見て女として面白い存在だなと私が感じたのは、野心の強かった後者の方。

上昇、権力・富の掌握、そして転落

田中角栄氏に請われて秘書となる前に、佐藤氏は辛酸をなめています。きっと惨めだったと思う。親戚中に押し切られて結婚する形となった、一人目の夫。角栄氏からも高い評価を受けていたこの男性は、結局佐藤氏よりも一回りも上の、百戦錬磨の女性のもとへ行ってしまいます。
そして角栄氏へのあてつけで結婚したのが二人目の夫。著者の戸籍上の父親でもあります。こうして波乱万丈の半生を歩んできた佐藤氏が角栄氏と政界を上り詰めて、その頂に立ち、そこからしか見えない景色を眺めた時、昔味わった惨めな思いなど全て忘れてしまったのではないでしょうか。その惨めが思いがあったからこそ、あそこまで上り詰めることができたともいえるのかもしれません。

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ロッキード事件の裁判が始まり、そして角栄氏が脳梗塞に倒れた後も政治活動を続けた佐藤氏ですが、そんな彼女の周りに集まってくるのは、もちろんお金が目当ての男性達ばかり。お金を借りたまま消えてしまう人が後を断たなかった様子を見て、著者である娘のあつ子氏は母親を淋しい人だと思っていたそうです。

淋しき越山会の女王―他六編 (岩波現代文庫―社会)

母親が与えたものと娘が必要としていたもののすれ違い

本書にこんなエピソードが出てきます。
慶応の中等部に合格したあつ子氏に昭氏が「学校につけていきなさい」と渡したのが、オメガの腕時計。
仕事の付き合いから、高価なものをもらうことが多かった昭氏は、こんな風に中学生のあつ子氏には不釣合いなものを与えることが多かったそうです。
あつ子氏が水に濡らしてはいけないと、学校の洗面所で手を洗う時にその時計をはずしたら、そのまま排水口に落ちてしまったことがありました。特段惜しいとも思わなかったけれど、なんだか嫌な気持ちになり母親に正直に話したところ、高い時計なのに、とため息をついて「まあ、いいわ。また別のをあげるから」といいました。

「そうじゃないだろう」とあつ子氏は思ったそうですが、こんな風に昭氏があつ子氏に与えるものと、あつ子氏が求めていたものはすれ違い続けました。そして母親が頂から転落したことで、ようやく自分のところに落ちてきてくれたと思ったものの、なかなかうまくはいかず、やがてあつ子氏は自傷行為や自殺未遂を起こすようになります。

優れた男の種をシェアするという感覚

本書では辻さんの著書がたびたび引用されます。その引用を読むことにより、本宅、別宅二軒、そしてその他etcレベルの女性達、そして政界の間を行き来した角栄氏のバイタリティと財力、残酷な情の厚さを知ることになるわけですが、別宅の存在が本宅を苦しめたのは明らかです。そして別宅同士は交わることの決してない平行線・・・・。
だけどこうして私は部外者として、日本近代史に名を残した男性と、その男性を愛した女性達の話を読んでいると、優れた男の種というのはこうやって遺されるべくして遺されるのかなぁなどと考えてしまうのです。
もちろんその種からできた子供達が背負うものの大きさは、想像もつきません。「妾の子供のくせに」といわれたところで、子供本人にはどうすることもできないのですから。
だけどこうしてあつ子氏が著書を発表されたことで、もちろん傷つく人はいますが、学校で支給される歴史の教科書の太字を効率よく覚えていた学生時代には、決して知ることのなかった近代日本史を学ぶことができました。太字に詰め込まれているものの大きさ、深さってすごい。

 

 

もう一人の愛人・辻和子さんの著書を読んだ感想

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