なかなか真似できない、バブル時代の憧れのカップルのエレガンス

著者はきっとエレガントな男性だったんだろうなぁと思いつつ、妻である安井かずみさんとともに時代の寵児としてあがめられていた頃の様子をまったく知りません。

いつの日か、日本がエレガントな国と思われる日が来ることを願いつつ、エレガントに筆を置くが、こんな事も書かない方がエレガントだったりして・・・。

こう書きのこした著者は、日本がエレガントな国に成長する前に、自ら命を絶ってしまいました。それが今から6年前の2009年のことです。

バブル時代の日本の象徴であり、憧れの的だった夫婦

私は著者である加藤和彦氏の音楽家としての活動をあまり知らないため、どうしても妻であり時代のアイコンでもあった「安井かずみに選ばれた男」というだけで無条件にこの男性を評価していますが(何様)、wikipediaを見るととても才能豊かな音楽家であったことがわかります。格差婚だと決めつけていて申し訳ありませんでした。
安井かずみさんがどのくらいお洒落で魅力的でカリスマ的な存在であったのかは、ロールモデルを演じ続けるのも大変だったと思う - マリア様はお見通しという記事を読んでいただければわかるのですが、彼女は「ファッションや生活のスタイルというもののお手本が日本にないため、海外の雑誌を参考にしている」という人でした。だからこう、どこか味付けがフレンチ。
加藤氏もそんな彼女の影響を少なからず受けていると思います。彼女と出会う前からお洒落な人ではあったのだろうと思いますし、また大変おモテになったでしょう。

男が試されるバー。そしてその楽しみ方

バーと言えば、雰囲気のよい場所なら女性を口説くために利用する場所にもなりますが、加藤氏の場合、男が試されるような非日常的な空間を選んで、そこで本物の素晴らしさに触れて自分の養分にしているようでした。
ニューヨークにある「ハリー・チプリアーニ」というバーがそれなのですが(現在は「ベリーニ」と名前を変えて移転してしまったとのこと)、これは伊・ヴェネツィアにある「ハリーズBAR」のニューヨーク支店で、オーナーのジュゼッペ・チプリアーニ氏の接客に加藤氏は魅了されていました。
このチプリアーニ氏のように、ロールモデルにしたくなるような「大人の男」を間近で観察できるというのも、無形財産。そういえばこのバーってあの辣腕編集者・島地勝彦氏のエッセイ にも出てきませんでしたっけ?

レストランで男は判断されるというのは本当だけど、「立てたくなる女」の存在も不可欠

日本人男性がどうしても苦手意識を持っている、あるいは気に留めてみたこともないのがレストランをはじめとする場所でのエスコートなのではないでしょうか。
エスコートといっても「女に何でもかんでも先にやらせればいいんだろ?」というだけではなく(それはそれで当たっているのですが)、結局自分がスマートに見えることばかり考えている男はエスコートがうまく行きません。それではどういう男性がきちんとエスコートができるのかというと、それは女性へ敬意を持っている男性なのだと本書を読んで思いました。

レストランの席に着くまででこうであるから、食事中ずーっと男がリードしなければならない。しかも女性を立てて。これはなかなか大変である。何せ自分の家内をアテンドしているみたいなものである。メニューのアドバイスからワイン選び、良い席の確保、やることは山ほどある。(中略)メニュー、ワインを注文し終わったからといって、ほっとしてはいけない。食事を待つ間、女性にずーっと話しかけていなければいけない。

日本だとカップルが向かい合って座ってお互いに別々の雑誌を見ていたり、今の時代ならば二人とも携帯をいじっていたりするなんて珍しくもなんともないですよね。要するに「カップルだから一緒にいるだけ」であって、「この人と一緒にいたい」という風には見えない、まあよく言えば年季の入ったカップルで、悪く言えば・・・・なんて言おう。
「二人が心地よければそれでいい」で済まされて、なんとなく目を背けてしまいがちなこの状況を加藤さんはよしとしませんでした。
だけど女性側が、こういう風に男性に「頑張らなきゃ!」と思わせるだけの女であることも大事なのではないでしょうか。男性の敬意と努力に値する女。女が男を育てる部分も絶対あると思います。
安井かずみさんはどこに連れて行っても決してハードルを下げてくれなさそうな女性でしたが、それを加藤さんが楽しんでいたのか、それとも時には気楽な食事を楽しみたかったのか・・・・二人の結婚生活の陰と陽の部分は安井かずみがいた時代 (集英社文庫)を読んで判断していただけたらと思います。

バブル時代の象徴だけど、バブリーなダサさがなかった夫婦

今の時代ならば「セレブ夫婦」とでも称されてマスコミに持ち上げられていたかもしれませんが、それもちょっと似合わない。TV番組に出てきて「このカウチはイタリア製で○○万しました」とか絶対言わないお二人だったであろうと思います。
金銭的にはもちろん恵まれていて、だいぶ散財していたようですが、この夫婦に共通していたのは「こだわり」。住む空間、食べるもの、身につけるもの。好きなもの、美しいと思うものにしか囲まれていたくない。
そのこだわりが詰まっているのが、この一冊。もう絶版になってしまいました。

加藤和彦、安井かずみのキッチン&ベッド―料理が好きで、人生が好きで...生活エンジョイ派のメ4 (1977年) (21世紀ブックス)

日本や日本人に対するダメ出しが多い一冊なので、鼻につく人は多いと思う。だけど指摘されていることに対しぐうの音もでない

またダメ出しかよと思いつつ「まあ加藤和彦に言われるならしようがないかぁ・・・」と思うでしょう。
加藤氏は何も「外国人のように振舞え」と言っているわけではないのです。「日本人として恥ずかしくない振舞いを」ということをおっしゃっているのだと思います。

「おっ、日本人も結構格好いいじゃないか」と言われるような男性、女性が増えたらいいなという願いが込められた一冊。
だけどクリスマスのところは非常に参考になると思います。外国人のガールフレンド、しかも相手がクリスチャンの場合、感謝祭から元旦まで続くホリデーシーズンに向けての準備にかける労力や予算配分はクリスマスにがつん!と行きましょう。
西洋は大晦日のカウントダウンよりもクリスマスに重きを置くのですから。


関連記事:自分の美意識に苦しめられた才女達 - マリア様はお見通し