サイコパスやソシオパスと出会ってしまった悲運(2)妻をつなぎとめるために娘達を殺した男


ここのところ、サイコパスあるいは生まれつき邪悪なのではないかと思うほど危ない人間に出会い、人生を狂わされてしまった人達(その多くは女性)の告白をもとに作られたドキュメンタリーシリーズ"Evil Lives Here"や"American Monster"、あるいはABCの番組を見ていて、色々考えていました。

 モンスターのいない、安心して暮らせる社会は絶対に実現しない

本題に入る前に、罪のない、むしろ善良な人間達の人生をめちゃくちゃにしてしまうサイコパスやソシオパスについて感じたことを少し書きます。
ここのところサイコパスやソシオパス人に出会って人生を狂わされた人達(その多くは女性)の告白をもとに作られたドキュメンタリーシリーズ"Evil Lives Here"や"American Monster"、あるいはABCの番組を見ていてすっかりはまってしまったのですが、それを見ていて思い出し、そして頭から離れなかったのが、松本人志さんの「不良品」発言でした。
あの発言は炎上しましたが、これらの番組を見ていたら松本さんの言いたいことがよくわかりました。更生できるか否かなど問題外でどうにもならない恐ろしい人間は一定数生まれてしまう。完全にいなくなることはないのです
自分を守るにはその人間に出会わないようにする、あるいは出会ってしまったら黄色信号、赤信号といった警告を無視せずに逃げ出すしかありません。社会がどんなにより寛容で優しくなり、恐ろしい人間に手を差し伸べようとしたところで、彼らはそもそも良心だとか共感力といったものが皆無なのでまったく意味がありません。それは先天的なのか、後天的なのかはわかりません。

 

精神的、肉体的暴力をふるってくる夫から逃れ(られ)ない女性達

これらのドキュメンタリーに登場して告白することを決意した女性達が揃って口にする言葉があります。
「なぜそんな男のもとからさっさと去らなかったのか?って言われたわ」

他人から責められることも、自分自身を責めることにも慣れきってしまっている彼女達。
だけど今日登場するステイシー・カイケンダルさん(以下ステイシー)の場合、精神的、肉体的な暴力を受けながらもなんとか頑張って経済的に自立をして強くなり、子供と自分の身の安全のために逃げ出そうとしたその時に、男が卑劣な手でステイシーからその強さを奪い子供が犠牲になりました。今からちょうど20年前の1991年、クリスマス直前のことです。場所はテキサス州ダラスのダウンタウンから約90キロにあるコーシカーナという街。

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近い将来夫となるTodd Willingham(トッド・ウィリンガム、以下トッド)と出会った頃、ステイシーはDairy Queenで働く高校生でした。自分よりも少し年上の若い青年、トッドに声をかけられたステイシー。不思議なことにこの時トッドはステイシーが住んでいるところなどを既に知っていて「俺の弟が君とデートしたがっているんだ」と言ってステイシーを誘い、弟も交えて三人で集まってひとときを過ごしたそうです。ところが肝心な弟はステイシーさんに話しかけてこず、トッドが会話を終始盛り上げていたのでした。
「彼はシャイだからさ」というトッド。実はトッドの弟がステイシーさんに興味を持っているというのは嘘だったと数年後にわかるのです。おそらく弟は、トッド自身がステイシーさんに近づくために、彼女の警戒心を和らげようと置かれたワンクッションのようなもの。そこまでしてステイシーさんに近づいたトッド。「自分が支配できる人間」嗅ぎ分けて見つけ出す能力を持っている時点でかなり危険な人物であることがわかります。

「まずい男に捕まってしまった」とわかるまでに時間はかからなかった

ステイシーはトッドの言動を見ていて多くの警告サインがあったにも関わらず、それを無視したことを認めています。「なぜなら彼は私に対してこれでもかというほど関心を示してくれたから」とステイシーは言いますが、これはシリーズ(1)サイコパスやソシオパスと出会ってしまった悲運 (1)一見貴公子のようなソシオパス Martin MacNiell - マリア様はお見通しでも書いたように、恐ろしい男ほどであった時の印象はよいもので、獲物を捕らえるまではまさに周囲もうらやむほどの理想の恋人のような人間を演じるでしょう。
ステイシーは18歳でトッドとの子供を妊娠しましたが、その知らせに対しトッドは「子供はまだ欲しくないし、(この若さで子供のいる人生は)俺が求める人生じゃない」

「そろそろ仕事を見つけた方がいいんじゃない?」

と言ってステイシーを落胆させました。(トッド、おまえ無職だろ・・・・)

バスタブにお湯を張っていたステイシーを後ろから突き飛ばし「流産したらどうするの?!」と恐れるステイシーに「悪くないね」というトッド・・・・・。この時ステイシーは、目を背け続けてきたトッドの本性をつきつけられました。それでもシングルマザーにはなりたくない。子供が生まれてきたら両親がいる家庭を。そう思ってステイシーは耐え続けました。18歳の若い女の子を心理的に支配し洗脳することなど、ソシオパス・トッドには朝飯前だったことでしょう。
18歳で産んだ長女アンバーちゃんが8か月の時に双子カーモンちゃん、キャメロンちゃんを妊娠。「一人目ですら欲しくなかったのに」と平然と言うトッドは、この頃からステイシーに暴力を振るい始めました。

 

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(事件が起きる少し前のステイシーと家族達)

 

暴力を振るわれた彼女が警察に電話しようとすると、トッドはその電話をとりあげて電話でステイシーを殴り始めました。電話が壊れてしまうほどの強さで殴ったのです。その後も暴力は続きましたが、ステイシーは警察に通報することを選びませんでした。なぜならトッドが刑務所から出てきた時に関わりたくなかったから、もうとにかくもう少し耐えてなんとか終わりにしようと思いました。
ところが後からトッドに謝られるとそれを受け入れてしまうステイシー。なぜならこんな男でもまだ愛していて盲目になっているから。その繰り返しで、ステイシーは「逃げられない」と気づくのです。ここで自分が洗脳されていることに気が付いたらよかったのにと筆者は思いました。

エスカレートする暴力

 

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(Evil Lives Here シーズン9 エピソード1でトッドについて語るステイシー)


やりたい放題の暴力的なトッド、今度は浮気をし始めました。それを若い妻が咎めればまた暴力をふるう。ステイシーさんは病院にいくことが許されず(暴力がばれるため)、お湯を張ったバスタブ入れられて、暴力を振るわれてぐったりしているステイシーは一晩中そこにいなければなりませんでした。彼女が目を覚ますと、そこには自分を見下ろしながら立っているトッドがいました。

「学習したか?」

「何について?」

「俺に口答えするとこうなるってことだ」

そしてトッドは「逃さないからな」というのです。

アンバーちゃんに続き双子が産まれた時、ステイシーはまだ20歳でした。
双子を抱く若い自分の写真を見て彼女はこう思いました。
「もしこの時の自分がもっと強かったら、まったく違う人生になっていたのに」
あの頃の自分を許せるだろうか。

二人が結婚したのは子供が生まれてからでしたが、トッドは自分は家にいてステイシーを働かせることにしました。ところがステイシーさんが外に出るようになると、トッドは浮気をしているだろうと言いがかりをつけるようになるのです。筆者が思うにこのトッドという男、ソシオパスな上に相当メンタル弱いですよ。今まで家に閉じ込めて支配し続けてきた若くて無知な妻が外=社会に出て、そして社会人として少しずつ成熟していく。こういうまともな大人もいるのだと、外の世界を知ってしまい、自分から離れていく。それが怖くてしようがなかったのではないでしょうか。だから浮気をしているなどと言いがかりをつけてくる。

暴力と恐怖で支配されていたはずの女が強くなって自立しようとしたその時、悲劇は起きた

働いて経済的に安定したステイシーは、クリスマスを家族一緒に過ごした後離婚したいとトッドに告げました。そして同じ頃、プリンシパル(校長先生というわけでもなさそうなので、和訳せずそのままプリンシパルとします)夫妻の赤ちゃんが亡くなりました。そしてステイシーは絶望しこう言いました。

「同じことが自分に起こったら私はもう立ち直れないわ」


このひとことでトッドが閃いてしまったのです。経済力をつけて自活できるようにまでなってしまったステイシーを、どうやったら以前のように自分が支配できる弱い女性にすることができるか。

クリスマスが近づくと、トッドは妙なものを持ち帰りました。それはアイスボックスでした。ステイシー達の家には既にアイスボックスがありましたが、トッドは幼い娘達が逃げられないようにドアをふさぐため、もう一つアイスボックスを購入したのです。娘達を家に閉じ込めていったい何をしようというのでしょうか・・・・。

トッドを含めた家族5人で過ごす最後のクリスマスですから、ステイシーは長女アンバーのためにドレスを買いましたが、トッドはそのことに対してけちをつけてきました。
「5人で過ごす最後のクリスマスなんだからいいでしょ。それに私が稼いだお金の使い道についてあなたがなんと言おうと関係ないわ」

ステイシーはこんな風に自分の考えをはっきりと言えるほど強くなってしまっていました。トッドはステイシーをつけあがらせないよう、あの弱くて従順な女性に戻そうとしました。その結果、クリスマスの直前にステイシーが思いもよらぬことをしてしまいました。

1991年12月23日の朝、トッドの振る舞いに不自然なところがありました。

眠っているステイシーと三人の娘達を見下ろしながら立っており、なんだか気味悪く感じたステイシー。そしてステイシーが仕事に出かけた後に、彼らの家から出火したのです。トッドだけは無事に逃げ出し、アイスボックスでふさがれたドアの向こう側にいた三人の娘は焼死しました。そして三人の娘が運ばれた病院で、関係者が皆帰った後、なんとトッドはステイシーにこんなことを言いました。

「アンバーと双子だったらまた作れるだろ?」
「大丈夫だよ。悲しまないで」 

おまえは正気か?!と言いたくなるような言葉に対してステイシーがどう思ったのかは忘れてしまいましたが、もう何を言われても彼女の耳には入らなかったことでしょう。少なくともトッドの計画は功を奏しました。

「ステイシーを弱らせる必要がある」

ステイシーは娘達を失ったショックが強く、離婚のことなどもうすっかり考えなくなっていて、娘達を失った自分にとって残された唯一のもの=トッドにすがるようになったのです。

娘達を殺されて再び洗脳状態に

こうして弱りきったステイシーは再びトッドの言いなりになりました。1992年にトッドが逮捕された時、トッドは彼女にこういったのです。

「警察は君に嘘をつくはずだ。だから彼らがいうことは絶対に信じてはいけない」

そしてステイシーはそれを信じて警察に「なんてことをするの?!私の夫は放火殺人なんてしていない!」というまでになっていました。トッドのいうことを信じることでしか、娘を失った悲しみのどん底にいる自分を救うことができなかったのでしょう。トッドはステイシーに手紙を書き、法廷で証言する際は自分の無実を主張するように指示をしており、ステイシーは手紙に書かれていた指示通りに彼の無実を主張しました。ここまでくるともうトッドの勝利にも思えましたが、結局トッドには死刑が言い渡され、2004年2月に執行されました。

放火したのは本当にトッドだったのか

放火したのがトッドだと決めつけるには調査、証拠が不十分であるとするジャーナリストや有識者の意見も多く聞かれるようになり、再調査も行われました。今でもこの事件を検索すると、トッドの無実を主張するページは多くヒットします。そのうえで執行された死刑の2週間前のことでした。
トッドはステイシーに自分が家に火をつけて、娘達を助けるために家に戻ろうとすらしなかったことを告白したのです。
また事件後に焼け跡に戻ってきたトッドの行動には不審な点がありました。なぜか焼け跡の一部に自分のコロンをまきだしたのです。「娘達が好きだった香りだろ?」大嘘です。彼がコロンを撒いたルートは、放火した際に灯油をまいた箇所でした。その臭いを消す必要があったとしか思えません。

この記事を書いていてふと思い出した事件があります。

 

 

ステイシーは恐怖と暴力で支配され続ける生活から逃げ出して娘達を守るために20歳そこそこで立ち上がったけど、栗原なぎさは支配してくれる男を求めていたと思います。年齢を重ねてもこればかりはどうしようもない性質だったのか。だから勇一郎と同罪。トッドのように勇一郎も死刑にならないかしら。

 
 
 
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シリーズ 第一弾

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