「とりあえずADHD」と診断する精神科医を責めてはいけない

「僕だけは君の味方だからね」という夫は、妻の職場での顔を知らない。 - マリア様はお見通しという記事に登場したDさんがようやく自分の問題と向き合い始め、心療内科に行ったそうです。そして診断結果はADHD。私は「ふざけるな!あんな問題の巣窟みたいな人間の疾患がADHDだけのわけないだろう!もっと他に複雑〇〇性障害とかそういう病名はないの?!」と思いました。
他の知人もやはりADHDと診断されましたが、彼女の場合も、私はどうも違うような気がするのです。専門知識のない人間からしてみたらどんなケースでも「それ違うでしょう?」となってしまうのでしょう。だけど精神科医が彼女をそのように診断するのもわかるような気がしました。そうするしかなかったのです。
なぜなら精神科医というものは、一体何が問題なのかよくわからない場合でも、患者に何かしら病名をつけなければいけないからです。

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精神科医のカウンセリングを受けている最中のDさんは、きっとおとなしく礼儀正しい、そして美しい言葉を使う、何の問題もなさそうな女性にしか見えなかったことでしょう。となると医師に必要な、彼女を診断するために必要な情報があまりにも乏しいのです。
仕事中に見せる側面をDさんが医師が見せたら、そこから分析して彼女が必要な治療ができたことでしょう。だけどその側面は、起爆剤(ストレスやプレッシャー)がないかぎり、休火山のようにおとなしくしているのです。
そういうわけですからDさんはいまだに社会生活でトラブルを抱え、ストレスのはけ口として夫や友人達に過度に依存し続けています。
「言いづらいのはわかるの。だけど私がおかしいと思ったらその場で言ってほしい」とDさんは言いました。そこである時、正直に伝えたのです。

「あなたはよく『私、純粋だから』『私、繊細だから』っていうけど、そうじゃないと思う。純粋なんじゃなくて単純なの。人の行動や言葉をそのまま受け止めるからジョークも社交辞令もわからない。
それから繊細なんじゃなくて、我儘なの。本当に繊細な人は、自分自身だけに対してだけでなく、他の人の気持ちに対しても繊細でしょう。だけどあなたは自分の心を守ることだけに必死なの」


直球でしたが、薄々Dさん本人も自覚しているだろうと思っていたので、それほどショックではないだろうと思いました。ところがDさんは真っ青になり、こういいました。
「ま・・・まるで平手打ちを食らった気分・・・・。あなたにそんな風に見られているだなんて思わなかったから」

二人であるレストランに行った時のこと。彼女がボロネーゼを注文しました。運んできたウェイターはこうひとこと添えて出しました。
「当店自慢の自家製ソースです。美味しいですよ」
するとDさんはこういいました。
「ねえ、聞いた?自慢の自家製ソースだって♪もしかして・・・私のために作ってくれたのかな?」
なんでそんなに前向きに解釈できるのか、私にはわかりませんでした。不特定多数の客のために作られたソースですよ。そしてその夜Dさんはずっと厨房の方に熱い視線を送り続けていました。厨房の中に、自分に想いを寄せている男性がいると思い込んでいるからです。

もしもこの場に精神科医が同席していたら、ADHDとは診断しなかったでしょう。
クリニックの診察室に入ってきた時点でもう既に「この人、ちょっと危ないな」という患者ばかりではありません。表面化しにくい問題を抱えている患者の疾患は分析しにくいでしょう。だからこそ、専門家として何かしら病名を告げなければならない場合、ADHDは便利なのです。


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