運命の女という映画をご存知でしょうか?
これを見て、若者の不倫よりも分別のある大人の不倫の方が危ないなぁと思いました。先日東京都立川市で起きた不倫のもつれが原因による殺人事件のように、友人の夫と不倫をしていることを友人に暴露して、二人を修羅場に陥れることを望むというどす黒い部分は誰の心の中にも存在します。
だけどそういう風に他人の不幸という蜜の味をまったく必要とせず、「欲しいのはあなただけ」となってしまう場合、しかもそれが分別のある大人の場合、不倫は恐ろしい結末になるのだなぁとこの映画を見て思いました。
【要注意】結末を含むネタバレあり
裕福な夫、可愛い子供、大きな庭付きの家、そして魅力的な愛人。女はすべてを守り続けることができるのか
ダイアン・レイン演じる美しい専業主婦コニーは、夫エド(リチャード・ギア)と一人息子チャーリーと緑豊かなニューヨーク郊外で静かに、心穏やかに暮らしていました。
経営者エドがもたらし、コニーが支える、その何不自由ない満たされた生活に、ある日突然吹き込んだ突風をきっかけに、運命が破滅に向かって大きく動き出します。不倫をしていた本人だけでなく、その夫の人生も、子供の人生も変わってしまうのです。
映画の冒頭部分はエドとの事務的な会話を、チャーリーに歯磨きをさせながら話半分に聞くコニーといった家族の様子で、毎日が緩やかに流れていく、いかにも安定した幸せな家庭像がうまく描かれているなぁと思いました。突風の日からゆっくりと、そしてある日を境に真っ逆さまに落ちていくことなど誰も想像ができません。
この家庭像の中に自分がいる間は「何の変哲もない、ちょっと物足りない毎日」と感じるでしょう。だけどこの日々を築き上げ、続けていけることがいかに素晴らしいことだったのかは、失ってからではないとわからないのです。壊れてからではないとわからないものの価値もあるのです。
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同世代としてはつっこまずにはいられない良妻賢母が晒す痛々しさ
風の強い日に出会った体の知れないハンサムなフランス人、ポール(オリヴィエ・マルティネス)というフランス人。
「うちに上がって。バンドエイドあげるから」
そういわれてもポールの部屋にあがるのをためらったコニーの警戒心を解いたのは、得ポールの屈託のない笑顔と冗談でした。
突風で傷ついたコニーの膝の手当てをしてタクシーに乗せてくれたポール。そのことをただ単にその日あったこととして夫に話すコニー。
「お礼にワインでも持っていったらいい。安いワインでいいから」
そしてあの日出会い、惹かれてしまった青年に再び出会う口実を手に入れたコニーは、お礼を抱えてポールの暮らすSoHoに向かいます。そしてその日はポールの魅力と誘惑に打ち克って、彼のアパートを去ります。だけどこの時既にポールは彼女が彼に惹かれていることなど見抜いてしまっています。
自分が追わなくても戻ってくるだろう。そんな余裕さえ感じられますし、貞淑な人妻ですら自分の魅力にはかなわないという自信もうかがえます。だからこそあんな笑顔を見せてくれるのですから。
「だめよ。こんなこと私にはできないわ・・・・」
「これはあやまちよ」
「どうしたらいいのかわからないの」
と言いつつのこのこポールのアパートを訪ねてくる時点で、実はやる気満々じゃないの、とコニーに対して痛々しさを感じてしまいました。だけどこの痛々しさがこの映画には不可欠なのです。危ないとわかっていても、飛び込まずにはいられない罠を見てしまったら、人間としてこういう風に行動してしまうのはもうどうしようもありません。
ざわつき始めた夫の心
「自分は本来こういうことをする人間ではない」というコニーの自己申告通り、やはり彼女は脇が甘いというか良くも悪くも純粋でわかりやすい。
すぐにばれる嘘をつく。
下着や洋服、靴まで新調してしまう。妻、母としての装いではなく、女としてのワードローブの新調。
情事におぼれてしまって、子供とお手伝いさんのお迎えの時間なのにポールの家で寝過ごしてしまう。
当然夫のエドは妻のこんな変化に気が付きます。彼女の嘘だってすぐにばれます。矛盾に気づきますからね。「自分は火遊びのやりかたなんて知らない」と言った彼女の言葉に嘘はありませんでした。だからこそ周りの人間まで傷つけることになるのです。
だけどコニーとポールの情事はどんどん燃え上がり、コーヒーショップのトイレや映画館でまで求め合うようになります。
中年の狂い咲きの怖さ、そして家族を犠牲にしてまで惚れた男の実態
「朝目覚めると、あなたのことしか考えられない。私の心の中にはあなたのことしかないの。目を開ける前にもうあなたのことが頭の中にある。あなたに会えない日は気持ちが不安定になって、ありとあらゆる理由を見つけては(マンハッタンまで)出て行ってしまう」
母、妻として毎日を穏やかに、幸せに生きてきたコニーの中の女が、久しぶりに目を覚ましてしまい、コニー本人も手をつけられなくなっているのです。こんな風に揺れるコニーに対し、ポールにとって彼女は遊び相手でしかありません。彼の手の平で転がされるコニーは、常軌を逸した行動をとり始めます。
そしてポールが死んだ後、コニーは彼が既婚者であることを知りショックを隠せません。そんな男が死んだ後も、彼と出会い、恋に落ちて、情欲に耽った日々の思い出に浸るコニー。完全に惚れたもんの負けです。
分別のある大人が本気になってしまうと怖いなと思ったし、恋が人間に与える力の大きさと恐ろしさがこの映画を見ているとよくわかります。破滅への序曲はとても静かに始まるのに、これはとんでもないことになるなと思わずにはいられないのです。
エドからの贈り物をあっさりとポールにあげてしまうコニー。その贈り物の中には、エドの愛がこめられていたことも知らずに・・・。そしてその隠されていた愛の存在を知った時、彼女は自分が犯した罪の重さを知るのです。
最後のシーンが好きです。自首したのかな、それともメキシコに逃げ切るのかな・・・。警察の前に停まったまま動き出せない彼らの車。
私は自首したと思います。可愛い息子のために。
分別のある大人の恋、そして破滅といえばこの映画もおすすめします。