女の友情の終わり 共生できない花だった


どんな友情でも不協和音のようなものが聴こえてくる時はあります。自分が落ち込んでいて友人の幸せを喜べない時(その逆もしかり)、顔を合わせれば話が尽きなかった日々は過ぎ去り、せっかく時間を作って一緒にお酒や食事に行っても、むしろなんとか間を持たせることに必死になって妙な空気が流れるようになったり・・・。
だけどそういうステージを経て成熟していく人間関係もあれば、賞味期限が切れたのかあるいは魔法が解けてしまったかのように、ちょっとしたことが引き金になって終わってしまう場合もあります。

It_is_a_long_way


私はあることがきっかけで距離を置くと決め、それ以来10年疎遠になっている葉月さん(仮名)という女友達がいます。今更友達と呼ぶのも変でしょうか。彼女と出会ったのは互いにまだ学生で20歳の時でした。何をするにも一緒でお互いから刺激を受け、励ましあい、時に衝突もしつつ楽しい日々を過ごした友人でした。
私達が少しずつ互いに「あれ?」と思うところが出てきたのは、社会に出て2,3年経ってからのことです。私は仕事もそこそこやりがいを感じ、仕事仲間にも上司にも恵まれて、恋人もできて充実した日々を送っていました。そして葉月さんと積もる話をするために食事をしても、話がだんだん合わなくなってきたのです。
葉月さんは当時フリーターでした。仕事内容は電話のオペレーターや単調作業、キャバ嬢。彼氏の生活パターンに合わせるために、フリーターという形を選んだのです。彼氏を軸にして回る彼女の生活の中で、若さはどんどん消費されてゆく日々。葉月さんは当時だめんず好きでもあったため、振り回されている自分を楽しんでいるようにも見えました。

「私はマリアがしているみたいな普通に楽しい恋愛じゃ満足できない。私の彼はマリアの彼みたいにちゃんと仕事についていないけど、私が変えて幸せにしてあげたい」

「葉月は自分がまず定職について生活の軸が自分自身になれば、恋愛に依存しなくても済むようになるよ」

声を荒げることは二人とも決してありませんでしたが、淡々と棘のある言葉で相手を否定するようになってしまいました。私も葉月も互いにとって何が幸せなのかということをまったく尊重していませんでした。

私にとっての幸せは、精神的・社会的・経済的に自立して、愛する人達との時間を大切にすること。もちろん、この「愛する人達」の中には葉月もまだ含まれていました。
葉月にとっての幸せは、だめんずが自分に出会ったことによって変わること、更生することで自分の価値を認識することでした。
このように互いに幸せだと感じることはこんなにも違うのに、その違いを尊重できなくなっていたのです。こうなると互いの嫌なところがだんだん目についてくるものです。私は葉月が歩きたばこをしてそのうえポイ捨てするのが嫌いだったし、葉月はポイ捨てするのを咎める私の視線が嫌いでした。「私一人がポイ捨てをしないように気を付けたところで日本をきれいな国に保つことはできない」というのが彼女の口癖でしたから。

彼女とはどんどん会う頻度が低くなっていきました。不思議なことに葉月と会わなくなってもまったく寂しいと思わなかったし、そのことを悲しく思いました。
そして会わないことにより、心にかかっていた靄が晴れた気がしました。見て見ぬふりをしてきたものをつきつけられたのです。私達はもはや出会った頃の二人ではない。
久しぶりに葉月から連絡が来て、ノーと言えずに会う約束をしてしまった私。そしてその日、引き金は引かれました。葉月は既婚者に言い寄られていて、「誘われたからホテルに行った」と言いました。そして彼との情事の後にベッドの上でこう諭したそうです。
「私とこんなことをやっている時間があるなら、早く奥さんのところに帰ってあげるべきなのに」
私はこれを聞いた時、ああ、ついに終わったと思いました。やることやってから「奥さんが可哀そう」というのは、その言葉を口から発しながら妻に対する優越感を利用して快楽の余韻に浸っているようなものです。偽善者。遊び相手なら遊び相手らしく、妻の話などホテルの部屋で出さない女であってほしかった。

今振り返ってみて思うことは、私と葉月は共生できない花だったということです。互いに見た目も香りもまったく異なる花。時には両方とも根が腐りかけたことだってある。だけどその二種を並べてみると意外と面白く、華やかだったりする組み合わせもあります。残念ながら私と葉月は近くにたたずんでいるとなんだかしっくりこない花だった。ただそれだけのこと。

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こうして疎遠になり10年が経ちましたが、彼女が与えてくれた思い出の煌めきは失われていません。美化するつもりもない。互いに学生だった頃はすごく幸せだった。出会ったかの地では、まだつぼみだった私達。そして葉月は今もきっと美しい花をつけている。