あれは確かドコモが独走状態で、同社のCMに出演していた広末涼子ブームが巻き起こっていた頃のことです。21世紀になったばかりの頃です。
当時vodafoneユーザーだった私は丘の上の安いアパートの1階に住んでいました。アパートにいるときは部屋の中に入ると携帯の電波がほとんど入らない状態で、携帯電話で話をするには出窓のところまで出て行って話さないといけない状態でした。ところがドコモユーザーの家族や友人が遊びに来ると、彼らの携帯は私のアパートのどこに置いておいてもばんばん電波が届いて通話もメールも普通にできました。ドコモ最強。まさにそういう時代でした。それでもキャリアを変えるのが面倒くさくてvodafoneのまま、そしてしばらく引っ越しもせず、携帯を使う時は出窓まで、という不便な生活に甘んじていました。
だけどやはり日夜問わず出窓のところで話していると、お隣の一軒家に住んでいたご家族が時々気味悪そうに私のことを警戒しながら見ているのを感じたし(あちらからすれば、日々私が出窓からその家を覗いているように見える)、もし私が逆の立場だったらやっぱり同じように気味悪いと感じただろうから、申し訳ないなと思ってはいました。「次に引っ越す時はvodafoneの電波も届く物件に引っ越そう」そう考えていたある晩のことです。
いつものように電波を求めて出窓際で携帯で話していました。出窓の外にはお隣さんの植えたお花が見えます。そしてその蔦と葉は、私が暮らしていたアパートとの間に作られた柵にからまっていました。
話に夢中で最初は気がつかなかったのですが、夜の闇に溶けこんだ蔦と葉の深緑の手前を人影が横切ったような気がしました。お隣さんのご主人が帰宅したのであれば緑の向こうに人影が見えますが、たった今私が見たと感じた人影は、柵の手前で私の出窓のすぐ外ということになります。
怖くて出窓につけたカーテンを閉めようと思いましたが、警察に電話するにも窓際じゃないと通話ができません。でも今見えたものは自分の気のせいかもしれないし・・・と思い、出窓の外の様子を家の中から見てみましたが、外に人はいないようです。
やはり気のせいか、と思いカーテンを再び閉めて室内に戻ると、今度は葉擦れの音が確かに聴こえました。風のない静かな夜に。
「やっぱり誰かいる」
思い切ってカーテンを再び開けてみると、出窓の外に男性が立ってこちらを見ていました。私が驚いて叫び声をあげるとその男性は走り去りました。
通勤に便利な特急停車駅から徒歩15分。携帯の電波が入らない、帰宅するだけで息が上がる丘の上。家賃が安いのも納得の条件でしたが、特急停車駅にこだわらなければ同じくらいの家賃でもっと安全な部屋を借りることはできたのです。何かあってからでは遅すぎる。これから一人暮らしを始められるお嬢さんをお持ちの親御さんへ。どんなに安くても1Fだけはやめてください。
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