認知症の祖母と暮らして大変だったこと

同居していた父方の祖母が認知症になって学習したことといえば、幽霊よりも生きている人間が手ごわいということでしょう。祖母に認知症の症状が出始めたと思ったら、その後はもうあっという間でした。日々怖くなるような速さでその症状は進行していきました。

 

1.夜19時以降は介護から一切離れ完全閉店する母

母は日中家にいて、彼女にとっては義母である筆者の祖母の介護をしていました。食事の世話、排泄介助、そして入浴介助。祖母に入浴をさせてパジャマに着替えさせたら(ごねて着替えないことも多々あり)、母は「私の今日の仕事はもうこれでおしまいです」と言って2階に上がってしまい、全く関わろうとしません。パジャマに着替えさせるのがだいたい19時半でしたから、その後は父や筆者にバトンタッチするのです。
そこで筆者は2階の自室ではなく台所の隣の部屋で寝るようになっていました。朝番=母が退勤するのですから、夜勤担当の筆者はいつでも祖母に対応できるように1階で寝るのです。同じく夜勤担当の父ですか?2階で熟睡していましたよ。おまえの母親だろう!と思いましたが、わがままに育てられた父には関係なかったのでしょう。

2.もはや私の知る祖母ではない。まるで別人、というか妖怪

祖母に認知症の疑いがあると気がついたのは、台所からバナナが一房消えたことがきっかけでした。「朝食はバナナとヨーグルトさえあればいい」と思っていた母が、前の日に買ってきたばかりのバナナを食べようとしたところ、どこにも見当たらないのです。そして家族に聞いても「知らない」というばかり。そして台所のゴミ箱を見てみると、皮が捨てられていました。
「もしかして・・・・」

祖母に「バナナ全部食べたの?」と聞いてもしらばくれるばかり。だけどしらばくれていたのではなく、本当に覚えていなかったのです。バナナを一房完食したことを。
それから数日後の未明。金属の擦れるような不快な音で目が覚めました。そしてかちゃん、と何かがカウンターに置かれるような音・・・・。起きあがって台所を見ると、真っ暗なまま。だけど確かに誰かいる。暗闇に慣れてくると妖怪のようなシルエットが浮かび上がりました。するとその妖怪が鍋に手を突っ込んで夕食の残りを食べていました。お皿を使うこともなく、直接口にもっていく様。「この人もうまともじゃない」と確信しました。その妖怪はもちろん祖母でした。

3.熟睡させてもらえなくなった

祖母がトイレに行くために起きるのは、だいたい午前1時くらいでしたでしょうか。その時に聞こえてくる足音がなんとも不気味だったことを今でもよく覚えています。祖母は幽霊ではない。家族なのになんでこんなに怖いのだろうと思いました。

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(画像の家屋は筆者の実家ではありません)

 
筆者が震えあがったのは、その足音がぴたっと止まる時です。なぜならそのぴたっと止まる瞬間、まさに祖母が「さ~て、マリアの部屋に寄ろうかな。それともまっすぐトイレに行こうかな」と考えている時だからです。

 青い線は筆者が「私の部屋に寄り道せず、まっすぐトイレに行ってくれ!そして私に熟睡させて!」と望んだ経路。赤い線が実際に祖母がたどった経路。

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 青い線と赤い線が分かれるところが、祖母がぴたりと止まるところでした。その足音がしばし聞こえてこなくなる間に、彼女は考えているのです。そして結局筆者の部屋に向かってその足音は近づいてくる。
ひたひたひたひた・・・・

4.無視して眠り続けることができない理由

妖怪が筆者の部屋の前までやってくると、力なく筆者の名前を呼ぶのです。その声がもう怖いのなんのって。
「マリア・・・・マリアやぁ~・・・・」
筆者の部屋は内側から鍵がかかっていますから、祖母は入ってこれません。あきらめるまで無視をすればよいだけなのですが、それがなかなかできなかった。なぜならドアの向こう側でいじける祖母の独り言を無視できなくて、なんだか可哀そうになってついついドアを開けて相手をしてしまうのです。
「ちっ・・・本当は起きてるくせに。皆そうやって無視すればいいんだよ。どうせ私が死ねばいいと思っているんだ・・・ぶつぶつぶつぶつ」
そして開けたら最後、ずっと祖母が妄想を語る相手にならなくてはなりません。これが辛かった。

5.ぼけている老人の話は否定しても意味がない

祖母が筆者の部屋にやってくると、自分の過去、あるいは妄想を延々と話し続けます。例えば「〇〇〇なんかあれだけよくしてやったのに、うちには葬式饅頭をよこしただけでのぉ・・・・」と、それが本当なのか妄想なのか、それとも祖母の積年の恨みなのかはわかりませんが、私は眠いし寒いしもう葬式饅頭なんてどうでもよかったのですが、祖母は話すことに夢中で寒さを全く感じていないのです。これは見ていて怖かった。「ここまで来てしまったか」と。
そして話は飛躍して教育勅語に関することになったりするのですが、筆者が学習したことは、ぼけている老人の話は絶対に否定してはいけないということです。私が自分の孫であるということすらよくわかっていない人なのですから、「いや、それは違うよ」などといったところでどうしようもないのです。「そうだね、そうだね。大変だったね」と聞いていればよい。

6.トイレまでのトラップ

気が済むまで話すとようやくトイレに行くわけですが、祖母が私の部屋から去ったからといって安心して眠りにつけるわけではありません。上の図にもあるように筆者にはトラップ1・2・3のクリアを確認する義務があります。

トラップ1 【台所】:筆者と話し終えた後ここにそのまま吸い寄せられるように入って行って、何か食べ始めたりする可能性がある。

トラップ2 【浴室】:トイレと間違えて入って行って、ここで排泄されたら困る。

トラップ3 【トイレ】:え?トラップ?ゴールでしょ?と思われそうですが、ここでちゃんと水を流す音がするかどうか確認が必要です。水を流す音がしないのに部屋に戻っていく足音がしたら、筆者が流しに行きます。もちろん祖母は手を洗っている様子などありませんでした・・・・。

トイレで用を足すと、祖母は不思議と自室へとまっすぐ戻っていくのです。私のところにはもう立ちよらない。多分私と話したことすら覚えていなかったのでしょう。
結局祖母も祖父も介護施設に入所しました。

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