好きなブログで紹介されている本はきっと面白いはずだ!と思って買ってみて、当たりだったもの、はずれたもの、色々ありますが、大当たりはこの本です。
三回読んだのですが、いまだに泣ける。
現代の若者の恋愛は親指で始まって親指で終わると揶揄されていました。そしてそれはスマートフォンの普及によって親指から人差し指に変わりました。そんな時代からうんと遡ってお侍さんが登場するこの恋愛小説。
ここから先ネタバレしまくり
主人公のまりが愛犬セタの散歩に出かけたら、三百年前の時代からやってきたという侍・小弥太に出会うところから話は始まります。まりの祖母の意思で、彼女が祖母と同居する家で彼をしばらく保護することになるのですが、まりは彼が侍だということも、三百年前の時代からやってきたということもなかなか信じようとせず、あくまでも得体の知れない者としてその存在を疎ましく思うのです。
まりにどんなに冷たくされても、他に行くあてもない自分はここに置いてもらっていてかたじけない、とその仕打ちを静かに受け止める小弥太。
そして彼を追い出すために、まりはある計画を企てるのです。結局それは失敗に終わるのですが、その計画がまりによって立てられたものだと知った時の小弥太の心情の部分を読んでいて、その優しさといじらしさに胸がしめつけられて、母性本能がうずき、愛しさがこみ上げてきてしまいました。
とにかくこの小弥太というお侍は格好良くて誠実で律儀なのですが、そういう部分に次第にまりが魅かれていき、二人が互いの好意を確信したあたりから、お話はどんどんせつなくなってくるのです。三百年を隔てた時空に暮らしていた二人が、いつまでも一緒にいられるわけがないのです。
せつなくて涙してしまうのに、読後はなんともいえず温かな気持ちになる不思議な一冊です。舞台は青森と北海道。あちらの寒さと、二人の愛、そしてそれを見守ったまりの祖母の温かさを感じながら読める、晩秋にぴったりの一冊ですよ。
こんな人にはおすすめしません
ケータイ小説(笑)みたいにレイプ、中絶、リストカットといったわかりやすいストーリーの起伏がないと満足しない人。
満月 (新潮文庫)