壊れてしまった女性



一人の女が壊れていく様子を目の当たりにしたことがあります。
壊れると言っても、悪いことばかりではない。骨が折れると、折れる前よりも強くなるように、心だって強く、そして柔らかくなる人だっているし、また実際にそういう人達に出会ったこともあります。
壊れて行く時の痛みや苦しみ、闇の深さを知る人のみが持つ優しさがあります。だけど今回の記事に登場する女性は、壊れた後、そのように立ち直ることができたのかどうかが定かではありません。

http://www.flickr.com/photos/17475693@N00/108846434

photo by Nebulaskin


私が某メーカーに通訳・翻訳として勤務していた時のお話です。
役員つきの秘書でKさんという女性がいました。はっきりいいましょう。秘書には向いていませんでした。典型的な妹キャラで(実際に彼女は次女でした)、見ている周りがちょっとはらはらしながら手を差し伸べたくなるタイプ。そつなく、さりげなく役員のお世話ができるタイプには、到底見えませんでした。だけど心が優しくて、とても面白い人だったので、男女問わず好かれ、仕事ができなくても役員達に可愛がられていて、私は彼女をおっさんキラーと呼んでいました。

だけど誰からも好かれる人なんていません。Kさんのことをよく思っていない秘書がいました。Yさんとしましょう。
髪の毛は色といいスタイリングといい、全盛期の工藤静香(特に前髪。あのくるんと上向きにカールしてあるやつw)。池田ゆう子先生も真っ青の、厚く白く塗られたファンデにダークな口紅。バイオテロかと思うほどきつい香水。
平成に入ってもこのスタイルを貫いているという点だけでも、個性溢れる、というのを通り越して、今思えば要注意人物だったのでしょう。
最初の印象は、世話好きな女性という感じで、秘書にはぴったりだと私は思いました。ちょっと押しつけがましいところはありましたけど。ところが妹キャラのKさんが役員やエンジニア達から可愛がられているのが面白くなかったのか、彼女にあからさまにきつくあたるようになりました。それは誰の目にも明らかでした。
他の人間達の前ではいい人面をして、陰でこそこそ・・・ではなく、誰もが見ている前でKさんをいたぶりました。そしてその矛先は、Kさんと仲が良かった私にも向かってきました。それがあまりにもひどくなったので、見かねた男性社員が注意をしたほどです。
世話好きなYさんの表情も態度も何かにとりつかれたように攻撃的になって、1ヶ月くらいしたある日のこと。男性社員が妹キャラKさんの席にやってきました。そしてこういいました。

「お仕事中ごめんね。あのさ、ちょっとPC見せてもらっていいかな・・・・?見ているふりだけさせてくれればいいんだ」

はあ・・・と言いながらKさんは男性社員にPCを見せました。

「実はさ、Yさんが、君が彼女のPCをハッキングしているっていうんだ。そんなわけないだろって言ったんだけど、君のPCを調べるまではああやって騒ぎ続けるだろうから、ちょっと調べているようなポーズだけとらせてね」

この話を聞いて「それって・・・・」と思い当たることはありませんか?
そう。これってよく通り魔による殺人事件のニュースがテレビで流れて「犯人は意味不明の話を繰り返しています」とか「刺せ、という声が聞こえた、と言っています」に近いものがあると思ったんですよ。私もKさんも。
実際にこの後、Yさんはどんどんわけのわからない話をするようになり、ある日突然退職してしまいました。理由は精神疾患。朝起きても通勤電車に乗れなくなってしまったそうです。
誰もが口を揃えて「心の病になるのはいじめられていた妹キャラのKさんの方だろ。なんでいじめていた側が心を病んでやめていくんだよ」と言いました。私もそう思いました。人間の脳や思考回路ってどうなっているのだろうと考えさせられましたよ。