川端康成の書かなかった雪国


プロブロガーのイケダハヤト氏が地方への移住をよく話題にされていますが、イケダ氏の移住先の高知のように暖かい場所ではなく、雪国への移住はどうなのでしょうか。雪国出身としては簡単に「おすすめです!」とはいえません。
だけど雪国でしか見ることのできない非日常ってあるんですよ。

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photo by Froschmann : かえるおとこ

露天風呂から見下ろす魚沼

もう大昔の話になりますが、帰省した際に文豪・川端康成氏が「雪国」を執筆したホテル高半(たかはん)の隣にある宿に友人達と泊まったことがあります。確かな階数は覚えていないのですが、夕食の後、確か5階あたりにあった露天風呂に入りました。
外は雪景色でかなり冷え込んでいました。私の育った街(平野部)も寒いのですが、同じ県内でも山間部は寒さの質がこうも違うのかと思うような鋭い寒さでした。だけどそういう寒さの中で浸かる温泉の温かさって格別なんですよね。雪景色を眺めながら・・・・。

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photo by JohnCramerPhotography (この画像は実際に私が宿泊した場所ではありません)


周囲を見渡すと、関越道を走る車のライトと数々の小さな集落の灯りを除いては、真っ暗な魚沼地方の山々。人も自然も、その地域一体が寝静まる準備を始めたような静けさ。
すると上越新幹線のライトが見えてきて、一緒に入っていた友人がざばっ!と音を立てて立ち上がりました。そしてタオルで隠すこともせず、新幹線に向かって両手を大きく振ったのです。
新幹線はものすごい速度で走っているわけですから、運転士も乗客も相当動体視力がよくない限り友人の裸など見えるわけもないし、5階という高さにある露天風呂を見上げている人がいるとは思えませんでした。
だけど私はその非日常的な瞬間に感動したのです。目の前には魚沼の真っ暗な山脈と点在する集落の灯り、そして友人の裸、走り去って行く新幹線・・・これらすべてが同時に視界に入る瞬間って、日常生活の中には決してありませんよね。
奇妙な組み合わせではありましたが、味があるというか、不思議な風情があったのです。

厳しい冬が過ぎ去った跡が美しい 

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ちなみにこの魚沼地方ですが、5月くらいに電車で走ると素晴らしい景色が見えます。景色というか、グラデーションですね。
長岡駅~六日町駅を上越線で走ると、山脈と田園地帯しか視界に入ってこないのですが、新緑のグラデーションが素晴らしいのです。明るい緑に輝く稲、そして深緑の山々。雪と寒さに耐え忍んだものにしか存在しない、形容しがたい色のグラデーションです。ぼぉっと眺めていると時間があっという間に過ぎていきます。

私は関東で暮らすようになってから日本は四季じゃなくて三季しかないのではないか・・・と感じるようになり、故郷のあの毛穴が凍りつくような寒さが恋しくなることがあります。だから今朝のように冷え込んでいるとわくわくするんですよ。
だけどそれは離れて暮らしているからなのでしょう。あそこで暮らし続けていたら、灰色の空も雪吹雪も、夜中にトイレに起きるくらいなら朝まで我慢した方がまし、と思うほどの寒さもうんざりしていたことでしょう。

越後湯沢温泉 雪国の宿 高半


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