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マリア様はお見通し

普段は何も見えていないふりをしながら、善人面して静かに暮らしています

Sweet and bitter 4  リセット

 

Sweet and bitter 1 歳月が流れて - マリア様はお見通し から読む

私はフェルナンドと少し距離を置きたくなり、お互いのアパートを行き来することも、外でデートすることも断るようになりました。 とにかく彼の顔を見ないようにしよう。そうすれば心の痛みも少し癒えるだろうと思ったのです。
フェルナンドの顔を見ても、こみ上げてくるのは愛情だけではなくなってしまいました。愛の「もうすぐで彼は私のもの」と勘違いしていた時の表情や、ひどい言葉で彼女を傷つけた自分の嫌な一面が、愛情よりも先に沸きあがってきて、嫌な気持ちになるのです。好きになればなるほど、気持ちが後ろ向きになる恋を、私は続けたいのだろうか。

「お別れ のその日まで、 毎日を楽しく過ごそう」と思っていたけれど、それすら難しくなってきていました。こうして稚拙なすれ違いが続く間も、時の流れは止 められない。秋が終わり冬が来る。そう思っても、秋が日増しに深まって行くのを肌で、目で、耳で感じながらどうすることもできませんでした。

http://www.flickr.com/photos/34530295@N06/15224122693

photo by Yoshikazu TAKADA


校内でも彼を避けるようにしていると(狭い校舎でこれは難しかった)、少しずつではありますが、心に平和を取り戻し、穏やかな気持ちになってきました。二人が距離を置いていた間に、愛はお払い箱になっていました。私にやきもちを焼かせるために利用されることがなくなったのです。利用の仕方を間違えた結果、私が腕の中からするりといなくなってしまったのですから、当然でしょう。
私とフェルナンドの間にはこれで仲直り、というはっきりとしたものはありませんでした。二人が以前のように一緒に時間を過ごすようになった時、どちらからも愛 の名前を出すこともありませんでした。
二人でいてもなんだかぎこちなく、しばらくはお互い何を話してよいのかもわかりませんでした。

愛を見てももうなんとも思わなくなった頃のある日のことでした。
ちょっと奇妙な日本人女性の生徒がいたのですが、10歳以上サバを読んでいたその女性が、ラウンジのカウチに座っていた私の隣に来て座ると、私の顔をじいっと見ました。
「なんなんだろうこの人」
それまでほとんど口をきいたこともない人でしたから、私が少し怪訝そうにしていると、彼女は突然こういったのです。

「ねえ、恋してる?」

個人的に話したことが一度もない人からの、唐突な質問に、私は何も答えられませんでした。彼女が私の顔を見てどうしてそう思ったのかはわかりません。少し戸惑った後「はい、しています」と答えると、彼女は「やっぱり そうなんだ~。どうりでセメスターが始まった頃と、顔立ちがぜんぜん違う。ふふふ」と言いました。
この人、私のことを見ていたのか、とその時になって初めて知りまし た。 ビターな味を知るbefore&afterみたいな顔。どんな風に自分の顔は変わったんだろう。

気がつけばもう晩秋でした。傷つけあったのは秋が始まった頃だったっけ、と思い返すと、本当に時の流れは速いものです。二人に残された時間はわずかで、そんなことをしている場合ではないというのに、それでも傷つけあってしまいました。
秋の始まりはあまりにもビターで、ここでフェルナンドと別れたら、嫌いになれたら、冬にお別れする時の胸の張り裂けるような痛みは味わわなくて済むんだ、 という考えが私の頭をよぎりもしました。メモリを破壊、そしてすべて初期化。楽になるかなぁ。リセットの四文字が頭をよぎりました。

だけどやっぱり緑の甘い香りがした春も、花火が州法で禁止されているほど乾いた夏も、ビターな秋も、悲しい冬も、全部一緒に味わいたい、と思ったのです。