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マリア様はお見通し

普段は何も見えていないふりをしながら、善人面して静かに暮らしています

Sweet and bitter 2 不協和音


Sweet and bitter 1 歳月が流れて - マリア様はお見通し から読む

21歳だった私は、留学先で恋に落ちました。短期留学が8ヵ月後に終わってしまうということは、彼との恋もそこでおしまいです。
別れの日がどれだけ辛いか、覚悟できていると思っていたのに、いざその日が近づいてくると胸が張り裂けそうでした。


美しいのに好きになれないものがあります。私にとって、秋という季節がまさにそれです。
稲刈り直後の黄金の田んぼの芳しさなどあっという間に消えていって、冬が来る。昔はそれだけが理由で秋が好きになれませんでした。 だけど留学した年にもう一つ理由が増えて、それ以来秋になるとバイオリズムが下がるようになったような気がします。落ちる時季が一年の中でこうやって存在することで、年間を通して妙に安定しているような気もしますが。


夏休みを終えて学校に戻り、秋/冬のセメスターが始まった頃は、まだまだ夏服でも大丈夫だと思っていました。だけどあっという間に冷え込み始め、緯度の高さを皮膚で感じるようになっていました。

秋が終わったら冬が来る。そしたらさよならしなくては。 そのさよならする日まで、一日一日を大好きな人と楽しく過ごしたい。もっと思い出も作りたい、と思って迎えた新しいセメスター。

http://www.flickr.com/photos/46935248@N00/2089556006

photo by Cherice


そのセメスターで新しく入学してきた大勢の生徒の中に、愛という日本人の女の子がいました。初めてスクールのラウンジで見かけた時に嫌な予感がしましたが、その予感は的中しました。
特別可愛いわけでもスタイルがよいわけでもないのにこちらが警戒してしまったのは、愛が漂わせていた自信でした。私が入学したばかりの頃、ラウンジで日本人同士が初めて顔を合わせると「どこ出身?」とかありきたりの切り出しで雑談をしたものです。
だけど愛からは「私は普通の日本人の生徒とは違うのよ」というオーラが出ていて、日本人に対しては常につんと澄ました態度をとっていました。 なんか嫌な感じでした。

新しいセメスターが始まって二週間くらい経ち、そろそろクラスメイトの顔と名前も一致するようになっただろうという頃、親睦をより深めるためにと学校がピクニックを企画しました。
語学学校から車で10分程走って山に登り、学校のスタッフと生徒達でセットアップを始め、学校のキッチンで既に調理済みのものをテーブルに並べました。こういう活動を通じて同じクラス以外の生徒達とも関わることができ、イベントはとても和やかな雰囲気で始まりました。 

http://www.flickr.com/photos/22077805@N07/6133157265

photo by Gerg1967


そして私と友人がいかにもアメリカといったあのバケツのような大きな容器からフルーツパンチをすくい、プラスチックカップに注いでいると、新セメスターから入学してきたメキシコ人男子留学生達のグループが声をかけてきました。
その中の一人、アレハンドロは、このピクニック以前にもよく私にちょっかいを出してくる男の子でした。彼はまだほとんど英語が話せず、レベルも下から数えた方が早いクラスにいたため、私達は同じ授業をとることもなく、共通の友人もいませんでした。
だけど始業前や休み時間に私をラウンジや廊下で見かけると、後ろからぱあっと走ってきて私の髪の毛をもしゃもしゃっと乱して、にやっとして走り去っていく、小さな男の子のようないたずらを繰り返していました。
言葉ではコミュニケーションをとることはなかったけれど、こんな風にボディコンタクトで自分の存在を私に知らせてくるのがアレハンドロでした。
フルーツパンチを飲みながら友人とお喋りをしていると、アレハンドロがホットドッグとハンバーガーが乗ったプレートを持って私のところにやってきて、私にプレートごと差し出しました。
ありがとう、と言うと、お礼はここに、という風に頬を可愛らしく突き出してきました。 当時私はもう既にフェルナンドというボーイフレンドがいたため、頬とはいえ、離れているところから彼が見ている前でキスするわけにもいきませんでした。
そのため私は自分の指に口づけて、その指を彼の頬に口づけるという間接キスでお礼をしました。 自分なりにボーイフレンドに配慮してアレハンドロにしたお礼でしたが、それでも配慮が足りなかったようです。ボーイフレンドのフェルナンドは嫉妬のあまり激怒してしまいました。
その時ちょうど彼の隣にいたのが愛でした。