ロスチャイルド夫人に学ぶ(4)女の人生の岐路


エドモン・ロスチャイルド氏の心をきっと射止めてみせる、と誓ったナディーヌさんはその誓いどおりに射止めました。男性と一緒に暮らしたいと思ったことが なかったナディーヌさんも、エドモン氏とは一緒に暮らし始めるのです。
すると男の面子を気にするエドモン氏は、自分が会いたい時にナディーヌさんの仕事の 都合で会えないことに我慢ができないと言い出し、一年くらい経ってからナディーヌさんは仕事をやめる決意をしました。

f:id:usmilitarybase:20150629192952j:plain


 

退路を完全に断ち、エドモン氏のために24時間を捧げる生活

  「私はエドモンのゲイシャになったのだ。というのも、エドモンと結婚できるとは夢にも思っていなかったからだ」
 
自立心の強いナディーヌさんは、それまでどんなに大金持ちと出会っても仕事をやめようとはしませんでした。芸能界での成功と出世をあきらめずに、働き続けた日々。
 だけど長所も短所も桁外れに大きなこの男性を愛し、ついに「命綱を使わずに高いところから飛びおりるような」(著書より引用)ことをしたのです。

二人が出会った頃、ナディーヌさんは27歳でしたから、一緒に暮らし始めた頃は28、9くらいでしょう。女なら今後の身の振り方に悩む年齢でもあります。男と違って生物学的にタイムリミットがありますからね。だけどナディーヌさんは、エドモン氏のために仕事をやめただけでなく、好意を寄せていてくれた男性達という保険のような存在も遠ざけて、人生をエドモン氏に委ねたのです。
 
  エドモン氏と別れたらまたゼロからのやり直しです。その頃には当然もう若くないわけですから、芸能界でやり直すことは難しいでしょうし、あの独特の世界の厳しさはナディーヌさん自身が一番よくわかっていたはずです。
それでもエドモン氏のためにすべてを投げ捨てたのは、財力を含めた人間的な魅力を考えると、もう彼ほどの人に出会うことはないだろうと思ったからだと私は想像します。エドモン氏ともし別れたとしても、かなりの手切れ金をもらえたと思うし、そういう計算も多少はあったと思うんですけどね。

ひたむきに愛し合っていた二人ですが、既婚者のエドモン氏がナディーヌさんに二人の今後について期待を持たせるようなことは、一度も言わなかったそうです。そして二人が出会った頃、エドモン氏の結婚生活は既にうまくいっていなかったことはナディーヌさんも知っていましたが、だからといって仕事をやめてまでエドモン氏に全てを捧げて「見返りに私と再婚して」と言ったり、仮に捨てられたとしても「あなたのためにすべてを犠牲にしたのよ!もうやり直しがきかないのよ!どうしてくれるの!」とエドモン氏のせいにするような女性ではありませんでした。 そして同棲し始めてから三年たったある日、エドモン氏はナディーヌさんに正直に告げるのです。

「もうすぐ離婚が成立するけど、屋敷のことを取り仕切ったり、お客を招いた時に僕と並んで挨拶をする女性が必要だから、すぐに再婚しなくてはならない。僕は上流階級のユダヤ系の娘と結婚しなくちゃいけなくなるだろう」

ユダヤ人社会の上流階級の最上級に属するエドモン氏の夫人の役目に、異教徒の、しかも欲望が渦巻く芸能界で売れない女優として生きてきた自分が選ばれるなどとは思っていなかったナディーヌさん。顔色一つ変えずにエドモン氏のこの言葉をききつつ、さすがに自分がエドモン氏の妻にはふさわしくないのだということを改めて認めざるを得なかったそうです。

まさかのプロポーズ。「やはり君と生きて行きたい」と思わせる女性

だけどこのことを、愛しているからこそナディーヌさんに伝えなくてはいけないと感じ、そして実際に打ち明けたエドモン氏の誠実さも、ナディーヌさんがここまで彼を愛した理由の一つでもあるのです。
その話の後も結局お互いの存在なくしては生きられなくて、一緒に暮らし続けた二人の関係が大きく動き出しました。


広告

 

「そろそろ子供を作ってもいいんじゃないか」


ある日狩猟から帰ってきたエドモン氏はそういったのです。そしてその話から約四ヵ月後に、エドモン氏はピンクの芍薬の花束を持ってオフィスから帰宅して、プロポーズしました。私はエドモン氏が子供を作ろうと言い出したのは、ナディーヌさんとの結婚を一族に認めさせるために、「自分の子供」という存在を使って外堀から埋めていく気になったのかな、と思いました。そこまでして異教徒であり、まったく違う社会階級に属するナディーヌさんと結婚したかったのでしょう。

エドモン氏と自分の間にないのは法律的なつながりだけで、精神的なつながりには絶対の自信があったナディーヌさんですが、どんなに金銭的に恵まれていても、将来に対しては何の保証もない生活は、時々彼女を打ちのめすこともあったのではないでしょうか。時計の針は止まってくれませんから、こうやって誰かの愛人でいるうちにも、自分は一日ずつ年をとっていくのです。

プロポーズを聞いた瞬間「生涯の様々な場面が走馬灯のように目の前に浮かんだ」そうですが、おそらく誰かの愛人として何の保証もなく生きることへの不安を抱えて日々も、目の前に浮かんだ場面の一つだったと思います。
エドモン氏の妻のことはあまり書かれていませんし、どうして夫妻の結婚生活がうまくいかなかったのかということについても全く触れられていませんので、無欲の勝利とは言い切れません。
略奪婚狙いの女性には何のためにもならない本ですが、もしも男性と別れてゼロからやり直すことになっても、愛して尊敬していた男性と生きることを選んだ結末がこうであればしようがない、と受け入れる覚悟のある大人の女性としての姿は学ぶべきものがあります。
まあ他の人が書いた本だからこうやって落ち着いて読んでいられるけど、自分がナディーヌさんの立場だったら、感情的に毎日ジェットコースターに乗っているような日々を送るのは耐えられないなと思います。

 

ナディーヌ・ロスチャイルド夫人に学ぶシリーズ

本シリーズで引用している書籍

ロスチャイルド夫人の生い立ち、売れない女優としての下積み時代、そしてエドモン・ロスチャイルド氏との出会い、結婚、ロスチャイルド夫人としての多忙な生活について書かれています。結婚がゴールになっていないところがいい。


男爵夫人は朝五時にご帰館

ロスチャイルド夫人の半生には興味はないけど、恋愛観については読んでみたいという人におすすめの一冊。

ロスチャイルド家の上流恋愛作法―愛される女性たちの秘密

欧米の一昔前のセレブリティ達のゴシップを読んでいるような感覚で、さらっと読めます。登場人物が豪華すぎて自分の生活とはかけ離れているようで、恋愛のベーシックっていつの世も、どんな階級でもさほど変わらないんだなぁということがわかります。