マリア様はお見通し

普段は何も見えていないふりをしながら、善人面して静かに暮らしています

人生で一番惨めで、だけど幸せを感じた夏

私が40年生きてきて最も惨めだと感じた夏は、どういう風に生きていくべきなのかというヒントを得た幸せな夏でもありました。
ヒントを得たといっても、どんな仕事をしたい、とかではなく「好きじゃないけど悪い人じゃないから」というだけで人と仲良くするのはやめようということでした。友達は数よりも質。ただそれだけでした。これからの人生という長い道のりをなる居ていくために、余計な荷物はそこに下ろして先に進めばいいと、気持ちが軽くなりました。

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あれは高校3年生の夏でした。聖子ちゃんという友達にキャンプに誘われました。小学校と中学校の同級生だった聖子ちゃんは、お母様が恋に落ちて夫と子供達を置いて家を出て行った後、毎日のように夜遊びをするような、私よりもずっとませていて、私の知らない世界を知っている子でした。

だから断りました。聖子ちゃんがアウトドア・・・?何かあるはず。ヤリコンのアウトドア版みたいなものなのでしょう。
「受験勉強があるし、生理中だからキャンプはきついなぁ」
「大丈夫だって!なんとななるよ!ね?マリアちゃんおねがーい」

それほど仲が良いわけでもない聖子ちゃんがここまでしつこく頼んでくるということは、よほど人集めに苦労していたのでしょう。
そしてキャンプ当日、迎えに来てくれたのは聖子ちゃんと直美ちゃん、そして年上の男性三人が乗った車でした。男性のうちの二人は既婚者でした。
気が重くなりました。

愛情に飢えているがゆえに下半身が緩かった聖子ちゃん。

それをさげすむこともなく「飲むと面白いから」と仲良くしていた、おおらかな直美ちゃん。
ときたら、もうこれは私が恐れていた通り、ヤリコンのアウトドア版なのです。G'night.


夜になると思った通り聖子ちゃんがテントから消えました。男性陣で唯一独身の圭介さんとイチャイチャし始めたからです。圭介さんは聖子ちゃんのバイト先の調理士で、聖子ちゃんはバイト先のオーナーと不倫をしていました。
「オーナーは私とデートして送ってくれた後、走り去る時に車のブレーキランプを5回点滅させてくれるの」
それがあいしてるのサインだということを知らなかった私は、話についていけませんでした。

「オーナーが奥さんと離婚しないのはね、奥さんはオーナーの帰宅がどんなに遅くなっても起きて待っててくれるから、色々都合がいいんだって。奥さんって怒らないからバカにされてるんじゃないのかな」

当時高校生だった私は恋愛経験もまだそれほどなかったけど、このオーナーがチンカス・カンであることくらいはわかりました。そしてそのチンカス・カンに遊ばれている若い女とともに、キャンプと称したヤリコンに来てしまっているのです。
そしてこの夜、圭介さんはオーナーと兄弟になってしまいました。

こんなに自宅を恋しく思ったことはありませんでした。車で3時間くらい走ったところにあるキャンプ場は、虫の鳴き声しか聞こえない静かな場所でした。

帰りたい

ここから逃げ出したい

そう思っていると、私と直美ちゃんが寝そべっていたテントに、残りの男性達(既婚者)がやってきました。そして散歩に行こうと誘ってきたのです。散歩に行ったらもう逃げられないと思った私は、断りました。だけど直美ちゃんは行こうといいます。あの頃の直美ちゃんは、口説かれることを楽しんでいたと思います。便器代わりに利用されるだけだということも気づかずに。聖子ちゃんと直美ちゃんの違いは、最終的にやらせるかやらせないか、それだけでした。
「うまく断ればいいからさ、ね。とりあえず行こう?」
そういって直美ちゃんは粘りました。そこで根負けした私は四人で散歩に行くことに同意したのです。

「うまく断ればいい」

私は彼女が持つこの器用さが好きではありませんでした。こういうことに長けてしまいたくないと思いました。
雲行きはすぐに怪しくなりました。星が綺麗に見えるところがあるからそこにいこうよ、と男性の一人が直美ちゃんだけを誘いました。要するにそこで2-2に分かれようということです。
そこで私は「生理痛がひどいのでテントに戻って休ませてほしい」と言って、他の人達の返事も待たずに後ろも振り返らずに走り出しました。テントが見えてくるとほっとしました。そして外灯に照らされて青白く浮かび上がる遊歩道を5分くらい歩いたところにあるトイレまで行きました。
トイレはまっ暗だったので、入ってすぐの壁面に手を滑らせて電灯のスイッチを探しました。そして探り当てたスイッチを押して電気をつけると、私はひぃっ!と声をあげそうになりましたが、声をあげたら大惨事になりそうだったので必死にこらえました。
公衆トイレの洗面所も個室も、まるで蛾の標本のようだったからです。壁面にびっしりと並ぶ蛾。特に個室の中はひどく、全部生きている蛾だと思われます。
声をあげたら蛾が飛びだしそうだったため、なるべく音をたてないように、さっさと用を足してテントに戻りました。

一人で眠りにつき、2,3時間経った頃だったでしょうか。聖子ちゃんと圭介さんの声がテントの外から聞こえてきました。
「だーかーらー、本人は生理中だからいやだって言ってるのを無理やり連れてきたの!だからマリアちゃんを責めないで!」
「ふざけんな!(男の)相手をしてくれそうな子を連れてこいってあれだけしつこく言っといただろ!!なんであんな感じの悪い、しかも生理中のガキ連れてくるんだよ!」

感じの悪いガキって私のことか・・・。
朦朧としながらそう思いました。そして翌朝はきっと圭介さんに睨まれるんだろうなぁとか考えていたけど、そんなのどうでもよいことでした。私がもっと不快に思ったのは、翌朝直美に言われたことでした。
「もう、これだからマリアちゃんはやりづらいよね。男あしらいが下手っていうかさ。相手の気分を損ねないように断る方法なんていくらでもあるじゃん」
これを聞いてキレました。
「じゃあ直美ちゃんに聞くけど、相手の気分を損ねないように断らなくちゃいけない理由は何?それが商売なら私だって我慢するけど、私があの男とやらなくちゃいけない理由なんて一つもない。直美ちゃんの言い方だと、なんだか断っている私の方が悪いみたいじゃん!!!」

この夏のキャンプを境に、私は今まで「そんなに好きでもないけど、話していて面白い時もあるし悪い人じゃないから仲よくしよう」と感じていた女友達を全員切りました。
それまでの私なら、私に腹を立てる圭介さんを「悪いのはマリアじゃなくて自分なの」とかばってくれた聖子ちゃんを「いいところもあるから」と許していたことでしょう。
だけどもう許すとか許さないじゃなくて、これからどんどん大人にならなくちゃいけないのに、こんな風に男に媚びながら生きている人を自分の周りに置き続けたら、また同じようなことに巻き込まれるのです。しかも男は風俗に使う金をけちって素人で安く済ませようと思うような男です。
好きな人、ものに囲まれて生きていれば、その数はほんのちょっとでも幸せになれるのです。それに気がついた夏は、しばらくヤリコンキャンプの不快感を引きずったものの、幸せでした。

「友達を切る」というと冷たい人みたいに思われるけど、

その切ろうとしている人達はそもそも真の友達だったの?

Sunrise @ Bàu Trắng, Phan Thiết