検察は正義の味方ではない 国家権力の恐ろしさがわかる本


なんとなく人と会いたくなくて、何に対してもやる気が起きなかった時期がありました。そんな時に読んだら元気が出たのがこの本です。

それまで書籍をジャケ買いすることがまったくなかった自分が、知らぬうちに手にとってちょっと立ち読みしてすぐに買った本でもあります。

 著者は「障碍者郵便制度悪用事件」で首謀者に仕立てられてしまった村木厚子氏です。

国家権力の怖さは佐藤優氏や田中森一氏の書籍を読んで知っていましたが、私は本書を読んで「自分は逮捕・起訴しても検察の大手柄にはならないような、まったく無名の、社会的地位のない人間で本当によかったな」と心から思いました。

障害者郵便制度悪用事件 - Wikipedia

私自身この障碍者郵便制度悪用事件のニュースを見て、村木氏の名前をよく耳にするようになっていた当時「きっと欲に目のくらんだばばぁが・・・」などと思っていました。もう完全にマスコミに踊らされていましたね。
ところが本書を読んで、大事件に飢えてハイエナのように嗅ぎまわっていた検察によって、一旦書き上げられてしまったストーリーは、村木氏のような、周囲から見たら「まさかあの人がそんなことをするわけない」と思われている、慕われているような人がどんなに一人で頑張ったところで、もう書き換えることも、消すこともできないという怖さを思い知りました。


ただ村木厚子氏の場合は、佐藤氏や田中氏と違って無罪を勝ち取ることができました。そこまでの日々の回想部分を読んでいて、理不尽な取調べに対しても恐ろしさと腹立たしさを感じましたが、ここまで追い詰められても、村木氏は気持ちを強く持ち続けました。
獄中で働く人々を自分と同じ公務員として冷静な視点から観察したり、そこで出されるご飯が雑穀だか麦ご飯だかのおかげで、拘留されていた間はお通じがよかった(笑)なんてことも書かれていました。

獄中日記だけでなく村木氏の半生についても多くのページが割かれていたのですが、「私にもできたからあなたにもできます」というようなことが全く書かれていないのです。
「女性も一生続けられる仕事を」と考えて現在のキャリアを選んだ村木氏ですが、女性が仕事をしながら子供を育てることの難しさが書かれていました。

「子供には寂しい思いをさせた」

娘さんが描いた絵を幼児心理カウンセラーに見せられて説明を受けた時の心境など、子供のいない私でも考えさせられてしまいました。
村木氏の場合、家事や育児に対して協力的なご主人がいてもこれだけ大変なのですから、女性が結婚・出産後も仕事を持ち続けるというのは本当に難しいことなのだ、と改めて思いました。
内容は濃くて重いけれど、すっきりとした読後感の得られる一冊です。

あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ (日経WOMANの本)

 「樹海です!」には吹きました。村木氏が拘留されていた間に読んだ本のリストつき。

国家権力の怖さがわかる本

佐藤優氏の「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

田中森一氏の「反転―闇社会の守護神と呼ばれて (幻冬舎アウトロー文庫)