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マリア様はお見通し

普段は何も見えていないふりをしながら、善人面して静かに暮らしています

身の丈を知っている不細工は美しい



「不細工」

言葉はきついけれど、お母様が実際に使った言葉を私もそのまま使っているだけです。

子供英会話スクールで講師をしていた時、いつもなら子供のレッスンが終わるまで近くのデパートで時間をつぶしていたあるお母様(橘さんとしましょう)が、その日は珍しくラウンジにいました。そしてぽつりとこういいました。

「先生、うちの子習い事を三つに絞ったんです」

それまでは日曜日を除くと毎日何かしらの習い事やら塾に通わせて、まるで我が子のマネジャーのように忙しかった橘さん。始めてから一番日が浅いのがうちの英会話スクールで、橘さんのお嬢さんは、うちに通い始めた頃はまったく表情がなく、三歳にして片頭痛もちという状態でした。
お嬢さんの片頭痛の原因がもしかするとストレスではないか、と感じたお母様は、習い事をいくつかやめさせてゆっくり子供らしく遊べる時間を増やそうと思ったそうです。そしてその結果、お嬢さんは本当に明るくなって「頭が痛いよ~」と泣かなくなったそうです。

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その話を聞きながら、実は私は橘さんが三歳のお嬢さんを週六日を習い事でびっしり埋めていたのは、お金持ちのマダム達の間の競争意識からくるものだとばかり思っていました。
自分達の夫の社会的地位や収入だけで争うのではなく、我が子がどこの小学校に入るか、ということも自分達のステイタスに関わってくる。何事も周りと比べて遜色ない、どこから見ても恥ずかしくない「裕福な家庭」の演出は大変だとすら思っていました。
ところが橘さんがこのようにお嬢さんに沢山習い事をさせた理由は他にありました。それはお嬢さんの将来のためを思ってのことでした。

「あの子不細工でしょう?だからそれなりの情操教育を与えてあげないといけないと思うんです。私自身も不細工だけど、こうしてお金に不自由しない暮らしができるのは、親が教育熱心で『いいところのお嬢さん風』に育て上げてくれたから。それだったら不細工でも目指せるところじゃないですか」

橘さんは不細工ではありませんでした。美人ではありませんでしたが、優雅でちょっとおっとりとしていて私達スタッフにもとても親切で、そしてちょっと抜けているというかずれているところがとても魅力的だったのです。



橘さんは「あの子は自分が不細工だということを知るには、まだあまりにも幼すぎるから言いませんけど、小学生くらいになったら親が言ってあげなくちゃいけないと思います」と続けました。
子供は言われたら傷つくでしょう。だけどそういうことを我が子に言う者としての責任を橘さんはしっかりと持つと思います。その責任とは、将来必ず役に立つ女性としての武器(教養やエレガンス、品格)を手に入れるための手伝いを、親としてできる限りするということです。
不細工だと言うだけであとは放置では可哀相だしただの言葉の暴力でしかないけれど、不細工だからと言って卑屈になっていてはしようがないとうことを教えてくれる親ならありがたいじゃないですか。