農村の長男に嫁ぐということ(1)

結婚がいまだに永久就職と言われているのなら、農村の長男のもとに嫁ぐことはブラック企業に終身雇用されるようなもの。

冬空

 

田舎の親戚づきあいは濃厚で、きつい

長男の嫁ってどこでも大変だと思うんですけど、農村の長男となるともっと大変ですよ。都会と違って娯楽がないからいまだに冠婚葬祭&盆暮れが大イベント。どのくらい盛り上がるイベントかというと、こんな逸話があります。


◆実話です◆

通夜振る舞いの席にて孫(5歳くらい)が隣に座っていた自分の祖父にかけた言葉

「ねえねえ、おじいちゃん。おじいちゃんはいつ死ぬの?おじいちゃん死んだら、またみんなでこういう風にご馳走食べられるの?」


笑えない・・・。子供の純粋さが残酷すぎて何も言えませんでした。
ただこういうお振る舞いやお斎の席でごちそうにがっつく人達を見ていると、やはり田舎者が決して垢ぬけないのには理由があるんだなと思いました。

話を冠婚葬祭に戻しますと、長男の嫁はそれらのイベントの仕切りがどんなにしっかりできてもどうせ粗探しされるし、下手すぎても駄目。どっちにしても小姑達に文句を言われるんですよ。ただひたすら終わるのを心待ちにするだけ。


中学生くらいになった頃でしょうか。母にやたらと「あなたは長男と結婚しちゃだめよ。できたら都会の次男とか三男と結婚しなさい。係累は少なければ少ないほどいいからね」と言われるようになりました。
農村の長男と結婚した自分と同じ苦労を私にさせたくなかったのでしょう。だけど当時の私は「愛している人となら耐えられるんじゃないかなあ」なんて思っていたんですね。恋に恋していた年頃だからしようがありませんけど。ほんとあの頃は、好きな人と結婚したらずっと大好きで、幸せでいられるもんだと思っていました。

今の私は・・・・はっきりいって無理だなと思います。母がやってきたことを自分もやれといわれたら、できません。例えばお正月。 
元旦から親戚が年始の挨拶にやってきます。皆一斉に来てくれれば母も楽だったのでしょうが、当然そんな風に声を掛け合って来てくれるわけもないので、皆さんばらばらとやってきます。しかも夫婦そろって。
夫婦そろってくるということは、皆さんも察しがつきますよね・・・・・。ええ、酒出せってことです。妻が運転して帰るから、夫は飲みますってこと。母はお酒とお料理を用意してそれをお出しして、片付けての繰り返し。

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photo by drufisher

母の願い。それは寝正月を楽しんでみたいということ

私が高校生の頃でしょうか、ふざけて母を「女中さーん」と呼んで「面白くないわよそれ!」と本気でキレられたことがあります。台所の引き戸を閉めて、母はよく言ったものです。

「お年始の挨拶なんて、お互い年賀状出してるんだからそれでおしまいにできないものかしらねえ」

私もそれには共感しました。何のための年賀状なんだろうって思ったんですよ。それに誰かが虚礼廃止にしようって言い出してくれればいいのになぁと思いました。嫁からはそんなこと提案できませんし、一番よいのは小姑の中でも最も力のある人が「もうお年始やお盆のおつきあいはやめましょ♪」と言ってくれること。でも残念ながら我が一族の小姑はそういうことを切りだしてはくれませんでした。
「一度でいいからお正月をぼけぇっと寝て過ごしてみたいわね」
確かにお正月は本来ならばゆっくり休めるわけですよね。特に三が日。だけど母はいつも以上に疲れるわけです。
「これなら仕事に行っているほうが楽よ。来年は年末から温泉に逃げるわ!」
そう毎年いいながら、まだ母の「寝正月」という願いはかなえられていません。


私の実家がある農村では、お嫁さんが出て行った家が私が知っているだけでも二、三あります。ある日突然若い男と出て行ったということになっていますが、その真偽はさておき、逃げ出したくなるのもわかります。そろそろあの村も嫁いで来てくれるのがビザ目当ての外国人女性くらいになっちゃうのかなあ。

 
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