幸せの味は人それぞれ



★ネタバレあり。購入を考えている方はこの先を読むことをお控えください。

娘、母、祖母の女三代のそれぞれの人生を読んでいて、ああ最後はここにたどり着いたのか、と温かな気持ちになった一冊です。長編小説でここまで引き込まれたのは吉田修一氏の「悪人」以来です。



皆何かを抱えて生きていて、私から見ると苦労の耐えない女達なのですが、実際にその人生を生きている彼女達にしてみたら、意外と人生の帳尻があっているともいえるのです。血のつながった家族、血のつながっていない家族。家族同士だからこそのどろどろとした心情が淡々と書かれていますが、なんだかんだ言って家族なのだというところに落ち着くと、家族って不思議なものだと思います。

自分の父の死後、母親(ハギ)と弟(長男)と一緒にさせておいたら、貧困の苦しみから彼がハギを殺めてしまうのでは、と思った長女の百合江は、次女の里実に大反対されながらも母を引き取ります。その貧困の苦しみを百合江自身もよく覚えているからこそだと思うのですが、百合江母娘と暮らすようになったハギがある日、大粒の涙を流しながら大福を食べる場面があります。
涙を流しながら食べたその大福の味、「んまがった、ありがとぉ」と言った時のハギの気持ち。たった数行の描写だったのですが、貧困と、実の家族(夫・息子達)から受けてきた暴力しか知らなかったハギが、何十年かぶりに味わった幸せがぎゅっと詰め込まれた大福のようでした。読んでいて本当に悲しかったです。まさに「それを見ていた八歳の孫が黙り込むほどの切ない光景」。

貧困と暴力に耐え忍び、お酒に逃げて迷惑をかけた百合江達には「自分がここに入院していることを知らせないでください」と病院側に頼み、最期はひっそりと逝くことを選んだハギの人生。

http://www.flickr.com/photos/42944774@N02/16819164922

photo by かがみ~


奉公先を飛び出して流しの旅芸人として暮らした後、帰って来た閉ざされた小さな田舎町であばずれだのなんだのと噂を流されても毅然と生き続けたハギの長女・百合江。
流産した後、「せっかくだから」という心無い義父母に、自分の夫と愛人の間に産まれた子供を育てさせられたハギの次女・里実。
里実と夫の間にようやくできた子供である絹子と自分に対する里実の態度の露骨な違いに、どうして自分だけは・・・と悩み続けた、父と愛人の間にできた娘・小夜子。
そして失踪してしまった自分の異父姉妹・綾子のことを知り「これは絶対に書かなければ」と女三代の人生とそれぞれが流れ着く場所を小説に書こうとする百合江の次女・理恵。

彼女達それぞれにしかわからない人生の悲しさと味がある。だけどどんなに悲しくても辛くても、長くは続かなかっただけで幸せな時もあったのです。
釧路とその周辺の温泉街が舞台です。著者は桜木紫乃氏。彼女が書く文章を読みながら、実際に行ったことがないからこそ、釧路川周辺の香りや光景を想像して楽しむことができました。これでまた行ってみたい場所が増えたぞ。

ラブレス (新潮文庫) 桜木紫乃